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風車祭
著者名 : 池上永一
出版社 : 文藝春秋
発行年 : 1997.11
N D C : 913
ひとこと : 最強のオバァ登場!

 一度は行こうぜひ行こうと思いつつ、万年貧乏で知れ渡る身の上ゆえそれは儚い望みであって、どうしても行くなにがなんでも行くというほどの情熱があるわけでもなく、どうなることやらまあそのうちぼちぼち、と、ひるあんどんらしく暮らしているところへいかなる運命の気まぐれか石垣島旅行の話が舞い込んできた。
  「行ってみたくない?」って行ってみたいとも!手元不如意もなんのその、聞けば出発まで一年もあるではないか。 その間に二カ月も残業生活を送れば旅費小遣いともに稼ぎ出せる算段だ。行く。絶対行く。
  思えば島との出会いは1997年のことだった。いつものように図書館で面白そうな本を物色していたところへ池上永一著「風車祭(カジマヤー)」は忽然と、しかも大層なインパクトをもって現れたのだった。なにしろこの本は分厚い上に紅型を模されたカバーは黄色ときている。地味な色彩の書架ではこの上なく目立つ。否応なしに手にとって中を開けば上下二段にびっしり文字が組まれている。ぴぴぴ。道楽アンテナが大きく振れて、活字中毒者のハートはがっしと鷲掴みにされた。これは面白いに違いないとうはうは持ち帰って読み始めるに、もしやこの物語の主人公は97歳の生誕祝いである風車祭に辿り着き、島人に敬われて更に面白おかしくパワフルに暮らすことを生き甲斐として疫病も天災も軽々くぐり抜けてきた御年96歳のオバアか?と思わず錯覚するほど傍若無人なフジオバアにまず仰天した。古今東西の書物をひっくり返しても彼女ほどのオバアは見当たるまい。まさしく最強であるからその動向は常に注目に値するが、本来の主人公はおそらく島の高校生で、彼の切ない恋と落としたマブイ(魂)の行方も気になれば、六本足の妖怪豚もけなげであり、薄れる信仰心とそれに伴う自然破壊によって一気に崩壊に向かう島の運命も案じられて味わいつつも速やかに読み進んだ。
  結果。「風車祭」は、今に伝えられる島の祭りや伝説がふんだんに盛り込まれ、なんでもとりあえずチャンプルーの南国の暮らしも賑やかに活写されて愉快愉快、謹厳実直な最高神職でさえ親しみをもって読ませる人物描写もなかなかな島の啓蒙書であった。いつのまにか「だっからよー」「ワジワジー」「マカチョーケー」等々馴染んだ言葉が自然に口をついて、影響の度合いが深刻であることを知る。
  朝までどんちゃん騒ぎが続く十八番街で飲んだくれ、まばゆい朝日を浴びてばったり行き倒れたい。
  ビッチンヤマ御獄の風を感じたい。
 月の美しい夜に聞こえてくる慶田盛のオジイのユンタが聞きたい。
 そんなわけで石垣島へ向かうのである。

(ソーダ)