第2回オンライン歌仙〈神田上水に翁〉の巻   夫馬南斎捌き

                座:風人連句会
                連衆:定まらず
                於:(発句から7句目まで)
                  新江戸川公園旧細川邸(1月11日)
   TOPへ          (8句目〜25句目まで)
                  ネット上
                  (26句目から33句目まで)
                  鬼子母神・大欅庵(3月30日)
                  (34句目から挙句まで)
                  ネット上

発句  若水や神田上水に翁あり          夫馬 南斎
脇     酒宴となりし松過ぎの句座        長谷川冬狸
第三  春灯り街道をぐいと抜けゆきて       太田代志朗
春     昼の行方に花ミモザ咲き         山本  掌
春月  月の菓子入学の子のえびす顔       森山深海魚
雑     ホテルのロビーで求職メール           冬
雑   駆引きの玄人なりや指の傷          湊  野住
雑     バトゥ・パハへと霧をのみにゆく     谷   章 
夏恋  夏木立あなたとわたし揮発性             掌
夏恋    ひとつ皿よりつつく瓜揉み             
雑    ボンと打ち柱時計の静止して        高井 朝子
雑     「フフフ、明智君」屋根に影あり          掌
月   絶景かな満々月かな五右衛門だ          南
秋     飛び交ふ声のもと螻蛄(けら)の鳴き        野
秋   海溝に潜りて噛みし甘き柿             深海魚
雑     見栄えで買った温泉みやげ            冬
花   湯けむりの花曼荼羅や御影堂             代
春     春光へ若き僧出奔す              掌
ナオ春 青い目も浮かれ騒いでどんたくの           野
雑     息つめて見る人形の家               朝
雑   ノラやノラ猫三十匹われひとり             南
雑     やたら愛想のいい三味線屋        越智未生草
冬・恋 夜に雪あれいけませぬ相対死             掌
冬・恋   車の隙間張って練炭で               野
雑    山中にマイナスイオン充ち満ちる           冬
雑     サラリーマンはガム噛みながら           野
雑    イラク戦カウチポテトでテレビ見て          代
雑     千夜一夜を語る宮殿                 未
月    砧うつ女狂(ふ)れゆく月かげに            代
秋     精神科医は落鮒を釣る               南
ナウ秋  菊武者の身体(しんたい)さはあれがらんどう      掌
雑     いつの間にやら隣は空家              冬
雑    「火の鳥」が並木ハウス*2を飛び立てり    連衆共作
雑     細腕親父に鉄腕息子                未
花    女童(めわらは)のほほゑみほのか花に花       掌
挙句    日永に酔ふて歌百歳(ももとせ)に         朝


註:  金子光晴が愛したマレーシアの町。霧で有名。

註2:
大欅庵隣にある昭和28年建造の木造アパート。昭和29年から34年まで漫画家手塚治虫が住み、「鉄腕アトム」「火の鳥」などの作を生み出した。



   2003年1月11日起首
   2003年4月22日満尾
  
                         感想メール


第2回オンライン歌仙の方針

 今回は2回目ですので、第1回よりは治定・アドバイスともに簡略化して行います。
 よって、連句の式目等に不慣れな方は第1回時の案内「オンライン連句」をぜひ参照なさって下さい。
 参考書や歳時記の案内も書いてあります。
 
 また、第1回分の作品と治定を読み比べていただけば、式目、作句のコツ等もよく分ると思います。式目部分は赤字・太字にしてあるので、そこだけ見て下さっても結構です。

 なお、初めて参加される方のための若干のルールもあります。それもぜひ一読下さい。


 なお、今回は新年を起句とするやや古典的な進行形式を用いることにしたので、その進行表を下記に記します。この通りに進むとは限りませんが、おおむねこういった形で進行させる予定です。
表6句発句新年名残の表折立

新年 (ナオ)二句め

第三
三句め

四句め
四句め

月の座春月
五句め

折端
六句め
裏12句折立
七句め
(ウ)二句め
八句め

三句め
九句め

四句めまたは
十句め

五句めまたは
月の座

六句め
折端

月の座名残の裏折立

八句め (ナウ)二句め

九句め
三句め

十句め
四句め

花の座
花の座

折端
挙句



総括と満尾(4月22日)

 1週間たったので、いよいよ総括をまとめます。
 といっても、届いたのは掌さんのもの一つ、それもかなり簡単なものだけでした。以下に転載します。

 山本掌さんの総括案:
  いま、総括のほうは縦書きにして印刷をし、ながめております。今回も面白く、その時々では、おや、こうなったのか、と時には?だったり、なるほどこう続くのか、と読んでいましたが、全体を通してみるとまた、違ったものが顕われてくるようです。

今の時点で気がついたこと。

 ・春光のなか若き僧出奔す これは77にしては長めでは・・・。もし、短くするとしたら
  
  春光のなか僧出奔す
  春光へ若き僧出奔す  

を考えたのですが・・。

 ・ノラやノラと花や花、間隔はあいていますが、どうなのでしょうか?
もっともあの<花>はそのままにしておきたいのですが・・。       (以上)


 他にはなかったし、実は私自身、1週間前と今日と2回かなり仔細に検討してみましたが、殆ど遺漏はない気がしました。
 内容的にも掌さんが言うとおり、なかなか面白く、俳諧本来の意味であるおかしみ、諧謔、それにロマンも人間訴求度もあり、なかなか味のある出来と見ました。

 ウ6句目の「フフフ、明智君」の句あたりからのユーモアと幅の広がりは、いかにも連句的、かつ新しさも含んでいて、ちょっと誇っていいかと思います。
 註のついた2句も、空間を広げ、あるいは時間を広げ、オフ会の記念碑ともなって、絶妙です。

 というわけで、まったく元ののままでもいいのですが、掌さんの提出した2句については確かにその通りでもあります。
 で、以下のように直しましょう。

 春光のなか→春光へ    春光へ若き僧出奔す
 花や花→花に花       女童のほほゑみほのか花に花

 以上で、36句正式に満尾、首尾整いました。今日をもって満尾の日付といたします。
 どなたか出来れば縦書き清書にして、皆さんに配布していただけないかしら。

 さて、これで第2回のオンライン歌仙を終り、しばし休憩ののち、連休明けぐらいのほどよい日を見計らって第3回歌仙を開きたいと思います。
 
 今度は発句から連衆の皆さんに出していただこうと思っています。何といっても発句が一番大事、式目・約束事もかなりはっきりしていますから、発句が詠めるようになって一人前です。
 我と思わん方、心準備をしておいて下さい。

 また、今回には直接参加しなかったけれど、オンライン上で見続けていただいていた方、あるいは新たに参加したいと思っていらっしゃる方々、ちょうどキリもいいし、遠慮せずぜひ次回最初から御参加下さい。

 それでは皆さん、しばらくお休みです。何かありましたら、メールを下さい。



治定と総括の案内(4月15日)

 1週間待ちましたが、2句のみです。

  1,日永に媼酔うて千歳に     朝子
  2,清きせせらぎ声和す蛙     未生草

 1,は、媼が打越の親父・息子、前句の女童といわゆる3句がらみ(3句続けて似た世界になること。要するに打越に障る)になります。また、千歳は仲冬の季語です。

 2,は、蛙をかはずと平仮名表記にすれば、遺漏なし。発句の若水、神田上水、そして芭蕉翁にもよく照応してなかなかグー。ただ、ちょっと上7と下7の間がなめらかさを欠きます。一工夫あった方がいいでしょう。。

 で、さて、順当にいけば2,採用となりますが、未生草さんは打越句を採用したばかり、朝子さんは上京にもかかわらずもう15句も採用なし、という問題があります。連句は句柄のみならず、座・連衆の和も大事です。

 よって、1,をこう手直ししてみることにします。

  日永に酔ふて歌百歳(ももとせ)に     朝

 こうすれば発句・脇にも照応し、春を寿いで目出度くなるでしょう。歌は連歌のつもりです。

 これでやっと満尾ですが、例によって最後に「総括」をしたいと思います。
 第1回の項を参照していただけば分りますが、総括とは全体を連衆みんなで最初から読み直し、意見、気になること、改良案などを提示しあうことです。

 前回、深海魚さんは36句の独自の読みとり解釈を披露してくれ、とても面白かったものです。
 で、今回もあと1週間、総括期間とします。
 発句以降、式目も考えつつゆっくり読み直し、考えて下さい。これがいい勉強になります。

 最終的な満尾はその後で、としましょう。
 では、皆さん、億劫がらずにぜひ楽しんで、どうぞ。



追補(4月11日)

 挙句の項に3人の名前を挙げて勧めましたが、他の人は遠慮せよという意味ではありません。発句・脇・匂いの花の作者以外は誰でも可です。
 今のところ出足が悪いので、書き添えます。



治定とアドバイス(4月8日)

 3句届きました。

  1,背に負うて花花花の帰り道          朝子
  2,女童(めわらは)のほほえみほのか花や花   掌
  3,花疲れ腕に抱く子の重たさよ         野住

 1,は、このままだと人情・なしです(打越句と同じ)。人情にするためには上5を、「父負うて」などとすればいいのですが、父では前句に付きすぎ。ゆえに、「童負い」「嬰児負い」「弱き児負い」などとあれこれ考えましたが、いづれにしろ親子関係となってしまいそうだったり、匂いの花としては哀しげだったりで、うまくいきません。

 2,だと、その点、匂いやかでぴったりおさまります。
 3,は、やはり「子」が付きすぎ、同字です。

 というわけで、ここは配置上なんとか朝子さんにしたかったのですが、2,にせざるを得ません。他もだいぶ待っても来ませんでした。
 ただし、「え」は「ゑ」にします。

 次はいよいよ挙句。
 ここだけは前句に必ずしも付かなくてもよしとされます。代りに発句・脇に照応させ、春を寿いで目出度く終って下さい。体言漢字留めがベター。でも、打越も漢字留めですから、何か助詞でも付けて終った方がいいでしょう。

 発句・脇・匂いの花の作者は遠慮します。朝子さん、深海魚さん、谷章さんなど、有終の美を飾って下さい。
 


補遣訂正(4月3日)

 「火の鳥は」の句、「は」を「が」に直します。ほかに「は」の主格が複数あるので。



治定とアドバイス(4月3日)

 オフ会効果でしょう、投句集中です。

  1,細かく響くサイダーの泡       深海魚
  2,げんげの土手に鳶の半纏       冬狸
  3,細腕亭主鉄腕女房          未生草
  4,あおとみどりの光り誘導灯        朝子
  5,われもわれもと得度を願いて       掌

 1,は、場所によってはぴったりとなるでしょうが、ここではどうも付きません。それに人情がありません。
 2,は、鳥に鳶と付けたのでしょうが、この場合は人間の鳶、それも脱ぎ捨てられた半纏だけがある感じでどうも付いた感じがしません。

 3,は、亭主女房だと恋になります。夫婦は一般に恋です。よって、こんなふうに直すといいでしょう。

   細腕親父に鉄腕息子

 「に」はなしよりあった方が語呂がよくなります。

 4,は、人情がありません。
 5,は、付きません。それに若き僧も出ています。

 というわけで、折から今年が鉄腕アトムの生誕年(2003年)とかで、ちょっとブームでもありますから、鉄腕句の直しでいきましょう。

 次はいよいよ最後の山場、匂いの花の定座です。貴人・正客が持つのがしきたりですが、ここではまあ自由とします。ただし、発句、脇、前の花の作者は遠慮。
 なるべく、あまり出てない方、オフ会欠席者、頑張って下さい。
 
 匂いやかに、大人の味わいを込めて。人情はあり。



報告と治定アドバイス(3月31日)

 昨30日、第2回のオフ会が、東京・鬼子母神大欅庵にて行われました。参加は庵主・山本掌(文芸歌手)、太田代志朗(歌人)、長谷川冬狸(編集者)、湊野住(大学院浪人)、越智未生草(精神科医)、高井朝子(札幌・もっか主婦)、それに宗匠役の夫馬南斎の7名でした。

 折から鬼子母神こと法明寺の桜は殆ど満開に近く、天候も爽やかで絶好の句会日和でした。
 しばし桜の下を散策し、「蕣(あさがお)や倶利伽羅龍のやさしかる   富久」なる句碑を発見解読(ただし、浅学にして全員、富久の何たるか誰たるかを知らず。御存知の方、お教え下さい)。
 上機嫌で戻って、持ち寄りの大吟醸で一献やりつつ歌仙開始となりました。

 結果は、上に表記したとおりです。
 ただし、ナオ7句目の「充ち満てり」は、ナウ3句目との関係で末尾を「ちる」と改めました。
 また、ナウ折立中7は当初「身体さはれ」で、「さはあれ」の意なのですが、ここに表記してみると、「身体」との関係でどうしても「触れ」の意にとられがちなので、「さはあれ」とあえて表記することにします。

 あとはゆっくり鑑賞していただけば、なかなか味わいに富んだ句つづきのはずで、上々だと思います。苦吟が常だった代志朗さんが、粋な和服姿のせいか乗りまくったのが印象的でした。今後とも和服で。ついでに野住君も和服でいらっしゃい。

 朝子さんは北海道から駆けつけ大忙しのせいで、4時到着となったため、採用句が出ませんでしたが、目下主婦ながら真言宗で得度していて、つまり尼僧であることが判明。そういえばそういう顔に見えてきました。

 越智さんも精神科医であることがはっきりしたし、僧も揃って、句の内容もいつ狂(ふ)れてもいつ死んでもいい気配となりました。
 まことに多彩、句の腕も向上し、全国有数の連句会に育ちそうな予感がします。 
 呵々。

 残りは花を中心とした3句。
 次は、花前ですから、せっかくの花を阻害しないこと、つまりちょっと控えめに、の感じで、あとは前句への付け、打越句からの転じに気をつけて下されば結構。

 人情はあり、場は空家をどうとるかでしょう。



治定とアドバイス(3月28日)

 オフ会前のせいか殺到しました。

  1,滝口でマイナスイオン深々と    冬狸
  2,賞もでる我慢大会村おこし    未生草
  3,鼻歌で箒ではいて朝餉とし     朝子
  4,嫁入りに狼煙のあがる狼の里   深海魚
  5,山河縹渺快楽(けらく)のはての冬銀河   掌

 1,は、滝が夏の季語です。「山中に」とか直せばいいでしょう。そうすると、下5も「充ち満てり」と客観的にした方がいいでしょう。つまり、

  山中にマイナスイオン充ち満てり

 自殺車は山中にあったというわけです。

 2,は、賞は余分。大会なら賞ぐらい出るものです。で、「新設の」はどうでしょう。

  新設の我慢大会村おこし

 目張りした車の中で一酸化炭素にどこまで我慢できるか、を競おうというのですから、何ともブラックユーモアです。面白いけど、しかしいくら何でもそれが村おこしとは無理がある気もしますが、さてどうしましょう。
 作者は、練炭から、単純に暑さ我慢大会のつもりだったかもしれませんが。

 3,は、前句の「苦」に対し、がらりと「楽」を対置した、いわゆる相対付け。
 面白くもありますが、これもとりようによってはかなりのブラック。人が死ぬなんて知ったことじゃないわよ。

 4,は、単独句としては下5のやや字余りを除けばなかなかいい句ですが、残念なことに「嫁入り」が打越にやや障ります。心中と結婚は男女の仲の行き着く先という意味では同じと思えるからです。

 5,は、やはり打越との関係が気になります。夜に雪と冬銀河、相対死と快楽のはて。それに、全体に相当大仰な印象があります。掌さんの長所でもあるけど短所でもあります。山河縹渺、快楽のはて、冬銀河、どれも強い言葉で、それぞれ一つだけで句が出来ます。

 というわけで、さて、迷うところですが、「若き僧」以降、かなり異端的な人事句が続いているので、ここはさっぱり1,の直しでいきましょう。

 さて、次回は第2回オフ会(30日)となります。
 出席予定は北海道から駆けつける朝子さん、新人の未生草さんを含め、7名になるそうです。
 場所は幹事の掌さんの隠れ家、東京・鬼子母神の大欅庵です。かなり有名な鬼子母神界隈の花も咲き始めたころでしょう。大いに楽しみたいと思います。

 やむをえず欠席の方、次回はぜひどうぞ。
 なお、歌仙は、欠席の方、オンライン上で秘かに見ていて下さる方(何人もいらっしゃるようです)のためにも、終り少しは残しておくようにしますので、またオンラインで御参加下さい。では。



治定とアドバイス(3月24日)

 3句到着。

  1,からむ足あと樹氷の嶺に     未生草
  2,安アパートの隙間を張って     野住
  3,レダ抱きけり白鳥ゼウス        掌

 1,は、素直に心中・道行きに付き、山辺というアドバイス通りでもありますが、雪に樹氷を含めて、やや付きすぎ、変化に乏しい感があります。連句はたまにはぴったり付くのもいいけれど、しょっちゅうはまずい。転開の妙が一番です。

 2,は、例のネット自殺志願者集団自殺事件で、うまい転開だし、時事句としても面白い。でも、これだけだと「目貼り」という季語があることからも自殺の件だとはっきりしません。
 ゆえに、「練炭で」と補いたいし、また、安アパートだと打越、大打越(打越の前の句のこと)の場所と同じ屋内の感も生じてくるので、安アパートを「車」と変えたい。
 こうすれば、外または内外になります。つまり、

   車の隙間張って練炭で

 字余りにもなりませんし、季語もはっきりします。次の句次第では恋離れ句ともなりましょう。

 3,は、いにしえの物語的世界が続きすぎる印象があります。固有名詞もちょっとうるさい。
 よって、2,の直しを採用します。

 次はもう恋から離れてもよし、もう一つ恋が続いてもよし、季節も、ふつう夏冬は1,2句ですが3句までは可ですから、もう一つ冬が続いても構いません。場所は外、引き締まった叙景句がうまくはまるかもしれません。



夜に雪の句の件(3月21日)

 作者の掌さんからメールで、「相対死は」と「は」を入れるのはどうも理が勝ちすぎる、ゆえに、

  夜に雪相対死あれいけませぬ

 ではどうかという答が来ました。が、どうも原句のままの方がいい気がします。連句の式目は絶対というわけではありませんから、句の良さを尊重して、原句のままいくことにします。



治定とアドバイス(3月20日)

 4句投句があります。

  1,夜に雪あれいけませぬ相対死    掌
  2,冬の雨     以下同         掌
  3,次々と湖面にむかう雪女      深海魚
  4,雪女郎髪の先より融けはじむ     深

 1,2,は、雨より何といっても雪の方が美しい。
 3,は、雪女はひとりではなく、何人もいるものなのかと、情景を想像すると、句としてはユニークで幻想的。が、恋にはどうもなりません。次の句次第では、呼び出し的にはなるかもしれませんが。
 4,は、女郎の語で多少恋っぽくなります。

 けれど、一番問題は、3,4,とも色々考えてみたものの、肝心の付きが成立しそうにないことです。愛想にも三味線屋にも雪女は無理でしょう。
 1,は、義太夫調、文楽調の気配があり、三味線に何となく付きます。三味線屋が深夜、猫の皮なぞを張りながら鼻唄をしているとも、外は雪になりそこに死の道行が…、なぞともとれます。

 呼び出しとか導入なしの、いささかいきなりすぎる内容ですが、ほかにないこともあり、今回はこれを採用とします。ただ、このままだと体言留めが4句続くことになり、問題ありですが、

  夜に雪あれ相対死はいけませぬ

 なぞと直すと、義太夫調が壊れる気もして判断がつきません。その辺に詳しい方、どんなものですか。構わなければ、直しでいきたいのですが、今はとりあえず原句どおりにしておきます。早めに教えて下さい。

 なお、今後は皆さん、出来るだけ投句は1句に絞って下さい。絞ること自体が勉強、自己批評です。

 次はもう一つ冬で恋、人情はなし、場所は外、がいいでしょう。水辺はだいぶ出ているけど、山(山辺といいます)が出ていません。そんなことを参考に、今まで出ていない事象を出して下さい。

 第2回オフ会の計画が進んでいます。なるべく大勢集まって楽しくやりましょう。いくさの憂さ晴らしです。


治定とアドバイス(3月16日)

 今日は3句です。

  1,日曜にもう、ぼくは行かない      掌
  2,地上5センチ漂泊(ただよう)てみる  々
  3,やたら愛想のいい三味線屋     越智未生草(みしょうぐさ)

 1,は、若々しく新しい感じで、ちょっと面白い。付きも何となく分ります。が、「われ」に「ぼく」がちょっと付きすぎの感もします。
 
 2,は、確か誰かがこういうことを言いましたよね、誰でしたっけ(掌さん、教えて下さい)? 本歌取りあるいは踏まえはそれでいいのですが、それが誰でどういう意味合いだったかで、句意もだいぶちがってきます。註が必要かもしれません。
 それと「漂泊」が3句去り前の「僧出奔」にちょっとだぶります。また、人情・なしなのも打越に障ります。俳諧における人情は、直接字面に人間が登場しているかどうかで決めます。

 3,の未生草さんは今回初登場の方。東京在住、55歳の男性、医師。連句は初心と書かれていますが、ネットの「連句」で検索してこのサイトに来られたそうです。こういう方が増えると、こちらも嬉しい限りです。

 句は、猫に三味線、というわけでしょう。付きすぎるくらいの付けですが、前句の主のところに「エエ、結構なお暮らしで。結構な猫たちですなあ。ア、あれは雄ですな、エッへへへ」なぞと舌なめずりしている下町の三味線屋のおやじの顔が目に浮ぶようで、とにかく面白い。

 こういうのを俳味というか、むしろ俳諧味、というべきでしょう。未生草さん、なかなかの俳人かも。昔から水原秋桜子など俳人に医師は多いし、どういう人なのか、今後が楽しみです。
 というわけで、今回はこれを採用とします。

 次は進行表では単に冬となっていますが、通常、名残の折・表(ナオ)の中ほどでは恋にします。じっさい、他の進行表では、ここらから恋にしているものの方が多いようです。
 よって、ここでも、冬で恋、としたいと思います。冬の恋もまた、凛としていいではないですか。

 人情・自以外ならOK。またがらりと転じた斬新な句を期待します。



治定とアドバイス(3月11日)

 今回はまる6日たって2句のみです。

  1,ことさらな太夫の裃ヨヨと泣き   掌
  2,ワイドショー夫のズボン繕ひつ  冬狸

 1,は、義太夫か歌舞伎か、いづれにしろまた芝居がかった雰囲気に戻る感があります。
 2,は、女性自立の先駆者、杉田久女の名句「足袋つぐやノラにもならず教師妻」を踏まえていますが、ワイドショーに夫の繕いでは久女が泣きます。

 それに、実は両句とも「太夫」「夫」と人情他(3人称)、打越に障ります。ここは人間を出すなら人情自(1人称)しかダメです。
 よって、私がノラを受けて、あとを拾うことにします。

  ノラやノラ猫三十匹われひとり     南斎

 ノラ猫兼内田百間(字ちがう)、または笙野頼子か森茉莉かです。ほかにも近頃こういう人いそうでしょう。

 次はもう一つ雑。人情が出たからもう一句は人情で。打越句の人形は人情ではありません。
 今まで出ていないことを探して詠んで下さい。連句は三十六句に人事百般宇宙万象を詠み込むことを目標にします。



治定とアドバイス(3月5日)

 3句あります。

  1,かねて用意の客用御膳        掌
  2,塵あくた舞ひ詠ふ今様         々
  3,息つめて見る人形の家        朝子

 1,は、ぴったりうまく付いて内に持って来、句としてはこれが一番。
 2,は、梁塵秘抄から発想ということですが、場所は外になりませんか? それに内容がどうも御影堂以降つながってしまうような気がします。

 3,は、付きがちょっと曖昧な気がしますが、どんたくは稚児・仮装行列もあるそうだし、まあ何とか付くかなという気がします。人形の家をイプセンの作品名ととると、別の解釈も生じますが。
 で、まあ、これまでの出具合も考え、これを採用とします。

 次も雑。打越に障らないことだけ気を付ければ、出来ると思います。
 もう少し家の中をはっきりさせたい気がしますが。谷さん、ここらで頑張って。

 そうそう、皆さん、下の提案見てくれましたか。



提案(3月2日)

 弥生になりました。下旬あたりに第2回のオフ会でもどうでしょう。
 


治定とアドバイス(2月28日)

 今回は3句です。

  1,今ハ昔 女子高生(ヤマンバギャル)は蜃気楼   掌
  2,青い目も浮かれ騒いでどんたくに        野住
  3,清姫のもの狂ほしき春日傘            冬狸

 1,は、面白い時事句とも言えますが、出奔と蜃気楼が少しイメージが似るかなという感と、掌さんは続きすぎることもあり、ひとまずおきます。
 2,は、出奔から晩春のにぎやかな祭りへの転じがうまい。
 3,は恋になってしまいます。ここで恋は絶対いけない訳じゃないけど、「待ちかねの恋」といってちょっとはしたないとされます。

  というわけで、2,を採用。ただし、末尾を「どんたくの」と直します。「に」だとこれから向うみたいな感もあるし、「の」の方が余韻がでます。

 次は雑。人情・他(3人称)は離れ、かつ、外が続いたのでぼつぼつ内(屋内)にして下さい。
 内容もそれに応じて、生活感なぞがあったりの方がいいかもしれません。絶対という訳じゃありませんが。



治定とアドバイス(2月23日)

 今回はお二人から。

  1,であいがしらに紙風船が     掌
  2,全山春光青僧侶出奔       掌
  3,遠足の列足どり軽く        朝子

 1,は、転じがちょっとフウワリしすぎで、物足りない感があります。
 2,は、面白いけど、やっぱりわざとらしい。
 3,は、「行楽」ということで打越と半分ほど障る感あり。

 というわけで、2,をもう少しなめらかに手直しします。

  春光のなか若き僧出奔す   

 春の字は第三にも出ていますが、だいぶ離れているしページも違うから、まあよしとしましょう。
 それにしても掌さんは出奔が好きですねえ。昔、ぼくもこんな句を作ったことを思い出しました。

  青年は花守志願突如とす

 まだヒッピー時代の名残があったころで、かつて伊豆の山村に月3千円で借りた茅屋(栄華(えいげ)庵と名付けていました)で暮していたころを想い出してのことで、妙に意気込んでいた記憶があります。
 すると、佐々木基一さんや真鍋呉夫さんが、「夫馬らしいなあ」と破顔一笑し、採用してくれました。

 次はいよいよ名残の折。いわばページが変るわけですが、進行としては前句に続き、やはり春。
 人間が出たから、もう1句は人間を出して下さい。人情は2句以上つづくです。ただし、同じような人にしないこと。



治定とアドバイス(2月19日)

 ちょっと早いけどいい句が入ったので、治定します。

  1,花の闇奔馬は韃靼めざしけり    掌
  2,湯けむりの宿いでければ花嵐   代志朗
  3,湯けむりの花曼陀羅の御影堂    代

 1,は掌さんらしい凝った句ですが、どうも付きません。
 2,3,は湯けむりが温泉にぴったり付いています。2,は宿が余分。3,は何といっても花曼陀羅が華麗です。温泉場のどこかにひっそりとある小さな堂が、花吹雪に包まれ曼陀羅のようという図がくっきり浮き立ってきます。釈教も出所として場所を得ています。
 
 ただし、「の」が重なるので、2番目の「の」を「や」とします。それから曼だ羅の「だ」の字が私のパソコンではどうやっても陀しか出ません。しばらくこれを使用させて下さい。もう一つの「だ」の字を出す方法、誰か教えて下さい。→冬狸さんの教えで解決しました(2/20)。
 これで、代志朗さん、14句ぶりの登場です。よかったよかった。

 次はとうぜん春。その次も春です。この辺はのびのびいけそうな気がします。ただし、花は仲春ないし晩春ですから、要するに4月または三春の季語にして下さい。



治定とアドバイス(2月16日)

 今回も4句です。女性ばかり。男性軍の奮起を望みたいところです。

  1,見栄えで買ひし温泉みやげ     冬狸
  2,あめつちそらくもかぜは流れて     掌
  3,白鳥の羽根青色に染む        朝子
  4,行く先に見ゆ目指す灯りが      野住

 1,は、地味ですが、抵抗感がありません。遣り句としてはこのくらいでいいでしょう。前句の柿を温泉場のみやげととれば付きます。
 2,は、少々わざとっぽい感があります。3,は、白鳥が冬の季語です。4,は、第三の「春灯り」の句に少々障ります。

 というわけで、1,を採用とします。ただし、前句も中7が「し」になっているので、「買った」と現代語にします。

 次はいよいよ花の定座。2花のうち先のもの(これ)は枝折の花といいます。
 本来は座中で最も花を持たせたい人にまわします。何か慶事等のあった方、お申し出下さい。なければ自由とします。

 打越に甘き柿がありますから、食べ物はダメです。純然たる「場の句」(人間の影が登場しないもの)が、案外いいかもしれません。特にこだわりませんが。



治定とアドバイス(2月12日)

 4句あります。

  1,海にきて秋の怒濤に身を反らす       代志朗
  2,冬隣アフリカ淡水魚類殿              掌
  3,ソナー音聞え干柿じっと噛む         深海魚
  4,海溝に潜るときの干柿甘し             深

 いづれも海とか水がらみなのが、面白い。偶然なのかしら?
 2,は生類で、3,は音で、付けたのでしょう。ただし、音や声は「柱時計」以来ずっと続いていますから、もう離れたいところです。

 1,は色々考えてみたのですが、どうも付かない気がします。4,は螻蛄が土の中に対し、海の中と考えれば付きます。
 というわけで、2,か4,となりますが、意外性、展開の面白さ、次の付けが楽しみの諸点から、4,を採用とします。

 でも、中7の「ときの」はやや説明的、留めはこのところ述語留めが続きましたから、ここらで体言留めと変化させたいところです。よって、こう直します。

   海溝に潜りて噛みし甘き柿    深海魚

 いま気付きましたが、こう書いてみると、潜っているのは魚である深海魚さん自身みたいですね。

 次は雑。花前ですから、せっかくの花を阻害するようなものは遠慮すること。他人の結婚式に花嫁より華美な格好をしていくのは、不作法であるのと同じような意味です。
 さらりとした遣り句(遁げ句ともいいます)がいいでしょう。



更に追補・訂正(2月9日)

 下の訂正、一日たったらどうも気に入りません。二泣きが感情的すぎるのです。
 で、元の形に近く、こう直します。

  飛び交う声のもと螻蛄の鳴き

 鳴の字問題のため、3句遡って「ボンと鳴り」を「ボンと打ち」に改めます。これなら意味も同じで、前後にも影響はないはずです。
 いやあ、手こずりました。



追補・訂正(2月8日)

 前回の治定後、どうも語調が悪いなと気になっていたのですが、今日散歩中にこう直すことにしました。「鳴」の字が2句去りにあるのも考えます。

  飛び交ふ声に螻蛄の二泣き



治定とアドバイス(2月7日)

 いやあ、投句殺到です。立春も過ぎ、本格的に春めいて、皆さんこころ浮きましたか。

  1,真鶸紅鶸河原鶸舞ひ       掌
  2,迦陵頻伽が色鳥従がえ      掌
  3,つくづくつくづくと鳴く法師蝉   冬狸
  4,世はつくづくと鳴く法師蝉     冬
  5,あさがほ一輪そそと天下よ    朝子
  6,声の飛び交う下で螻蛄鳴く    野住
  7,花もみじ舞う夜を韋駄天     代志朗

 生類釈教(釈迦の教え、つまり仏教)、植物が多く出ています。仏教は寺の山門(知恩院だったかしら?)から、鶸は五右衛門釜ゆでの三条河原から、ですか。迦陵頻伽は仏教ゆかりの想像上の極楽の鳥、韋駄天は仏教の守護神のひとつ。法師蝉にいたっては仏教兼生類です。

 中で面白いのは法師蝉と螻蛄(けら。三秋)でしょう。螻蛄も土の中で「ジー」と低く鳴くとか、どちらもどこか無常感があります。

 それらに比し、5,の朝顔はちょっと清楚すぎる感あり。7,は久々の京都浪漫派・代志朗さんの面目躍如というところですが、しかし困った問題あり。それはここで「花」という語および植物(木)を出してしまうと、2句去り後の花の定座に障ることです。

 植物は何とか対策もありますが、「花」はどうしようもありません。もちろん、ここでの花もみじは花のように美しい秋のもみじの意なのですが、語として花は花です。

 というわけで、3,4,6,から選ぶことになりますが、3,はちょっと字余りが目立ち、4,はいくぶん説明的になります。
 そこへいくと五右衛門の大見得と螻蛄の対比―芝居好きの野住君によれば、声は田舎歌舞伎の大向うからの掛け声、螻蛄はむしろの下の土の中だそうですが―の方が、何とも俳味があって面白く、含蓄すら感じさせます。

 ゆえに、6,に決定。
 ただし、表記を旧仮名に、打越句の終りが終止形なので、下7末尾を「き」と連用形にします。

   声の飛び交ふ下で螻蛄鳴き

 最年少の野住君、連日睡眠3時間の頑張りののち、先週ブジ修士論文を提出したところだそうです。よかったね、おめでとう。まだ面接はあるけど。

 さて、次はもう1句、秋。
 ついで、進行表どおり雑、花、春、と進みますから、それを念頭に置いて下さい。つまり、ここではやはり植物はダメです。

 人情とか内外(うちそと)、内容は、要するに打越に障らないよう気をつければOKです。今まで出来た分を眺めながら、ぼつぼつ自分で考えるようにして下さい。
 これまで出ていないものやことを出して下さい。
 


治定とアドバイス(2月3日)

 3句届きました。

  1,老猿の足からのぼる赫き月        掌
  2,月煌々街への軌道のみ照らす    深海魚
  3,お月様しっかり見ていた荒れ御堂    朝子

 いづれも叙景句、1,はちょっとルソーの絵みたい、2,3,はシンとした日本画風。
 これだとせっかく面白くなった前句の雰囲気から、また打越の静寂に戻ってしまう感があります。2,は、だいぶ前の「春灯り」の街道と内容・語句ともちょっと障りそうです。

 ここはせっかくの前句だから、もう少し盛り上げた方がいいでしょう。
 で、私が付けてみることにします。私ももう11句も登場していません。

   絶景かな満々月かな五右衛門だ      南斎

 屋根の上の怪人は、20面相ならぬ京の山門上の石川五右衛門だったというわけです。

 次は秋。人情・自(1人称)または人情なし(人間登場せず)。
 また、思わぬ変化があると面白くなります。



治定とアドバイス(1月31日)

 2句になったので、治定します。

  1,「フフフ、明智君」屋根に影あり       掌
 
 のち、本人より下7の訂正あり、

  2,     同    窓に人影

  3,腕カバーしてガリ版を刷る         冬狸

 1,の句は一挙にミステリーの世界に転化したところが、鮮やかで洒落ています。
 2,の訂正は、前句にも「鳴り」と「り」があるのが気になったのでしょうが、こうすると主人公が打越句以来まったく動いていない感があります。

 屋根なら主人公夫妻がきょろきょろ動き、窓か玄関から上を見てみた、といった印象が生じます。「り」に関しては、影「消ゆ」「見ゆ」「飛ぶ」など試してみましたが、どうもしっくりきません。かつ、前句の「り」は連用形的、この句は終止形で、あまり気にならない面もあります。

 3,は、昔の学校か役場などの風景ということでしょうが、転じとしては何といっても1,が勝ります。よって、1,を採用とします。

 次は、2回目の月。今度は秋月です。歳時記では黙って月といえば秋になります。
 花の定座とともに見せ場です。張り切って下さい。
 場所は外がいいでしょう。



追補(1月30日)

 前回の治定中、高井さんに関する部分でちょっとミスがありました。
 居住地のことですが、札幌市と去年聞いていたのを忘れていました。よってその部分少し直しましたので、見て下さい。

 なお。今回の投句、まだ1句だけです。もう少し待ちます。



治定とアドバイス(1月26日)

 2句投句がありました。

  1,ボンと鳴る柱時計の静にて     高井 朝子
  2,鰊御殿敷居に虫の喰った穴      深海魚

 1,はこのままだと、前句の家庭内風景の延長になってしまい、物足りません。が、ちょっと手直しすれば面白くなります。

   ボンと鳴り柱時計の静止して

 こうすれば、1時だか何時だかを打った途端、とつぜん時計が凍りついたみたいで、何やらシュールでもあり、ミステリアスでもあります。

 2,は、鰊が晩春の季語です。建物としての鰊御殿は年中あるじゃないかとなりますが、歳時記では例えば「相撲」も年中あるけど秋になり、他の季節にしたい場合は「初場所」とか「夏相撲」とかにするわけです。歳時記は完全なリアリズムではなく、一種の約束事の世界なのです。

 というわけで、今回は1,の直しを採用とします。
 高井さんはこれで初登場となります。以前多少は聞いていましたが、もう少し連句との関わり・動機など個人情報をお寄せ下さい。

 次は、もう一つ雑です。
 その次が2度目の月(今度は秋の月)ですから、月の障害になるようなもの、いわゆるそびきもの―雲とか霞など、あるいは高い塀とか建物は遠慮することになっています。

 場所は外または内外(うちそと)がいいでしょう。また、意外な展開を期待します。



治定とアドバイス(1月22日)

 いま窓外は雪です。雪の中で夏の句を扱うのも妙な気分ですが、連句にはこういうことも起ります。いい句が届いているので、治定します。

  1,蚊帳すけてみる黒髪のゆれ     掌
  2,ひとつ皿よりつつく瓜揉み     冬狸

 1,は例によって掌さんの色っぽい、妖艶な句ですが、前句と同じ延長上にある気がするし、前回の他の人の投句に蚊帳の句があったこともちょっと意識に残ります。
 2,の句は、ラブラブ模様から一転、所帯を持ったらこんなになったという変化があって面白い。連句は「付けと転じ」が一番のポイントです。よって、これを採用とします。

 次は、まだ夏とか恋を続けてもいいのですが、夏冬は通常2句程度、恋に関しては「ホテル」の句以降3句はとりようによってはかなり恋っぽいとも言えるので、ここらで終えて雑に転じてはと思います。

 「ひとつ皿」の句はまあ夫婦模様ですが、親子や違う組み合わせの光景ともとれなくはありません。次の句次第です。そして、それ次第ではこの句はいわゆる「恋離れ」句だったことになります。

 場所は内、人情は「3人称(他)」または「人情なし(人が登場しない。叙景句など)」、です。
 では、どうぞ。



治定とアドバイス(1月19日)    

 今回は皆さん、ずいぶん早い。やる気十分ですね。

 1,奇術師の箱より出でし水着美女        冬狸
 2,夏木立あなたとわたし揮発性           掌
 3,忍びつつ小暗き蚊帳の内見れば       野住
 4,本堂で喧嘩したあと午睡して        高井朝子

 面白いのは1,が一番。ただし、奇術師が打越の「駆引き」「指」に心もち障るかもという気がします。決定的ではありませんが。
 2,は「揮発性」が霧とうまく付く感がします。
 3,は、忍びつつ、小暗き、内、がイメージがだぶります。
 4,は恋ということがはっきりしません。子供が喧嘩したのかという印象があります。

 というわけで、2,を採用とします。

 次は、やはり夏で恋。夏は1句以上3句まで可、恋は2句以上5句まで可。場所は屋内(内)がいいでしょう。



追補と再訂正(1月18日)

 マレーシアの句の作者・谷章さんからメールが来て、バトゥ・バハの「バハ」はパソコンのメール上そう表記されてしまっただけで、本当は「パハ」だそうです。よって書き直します。

 また、上7の「ぞ」はちょっとうるさい感じもあるので「と」に変更します。



治定訂正(1月17日)

 朝、下の治定をして、学校へ行き、授業をして戻ってから、重大な失策に気付きました。
 春月の句が下のように直したため、「月」がなくなっていました。
 これではむろん月の座になりません。

 よって急遽、直しを図ったのですが、本物の月にすると、昼月であれ夜の月であれ、要するに「時分」になってしまい、打越に障ります。一番の問題はそも打越に「春灯り」があることだったわけです。ここで夜、あるいは時分を避けるべきだったのです。

 障らない殆ど唯一の方法は、いわゆる「虚の月」(本物でない月)にすることだけです。
 よって、お菓子を月餅のような物としてみました。月餅はがんらい中国では中秋節用の物だったようですが、日本ではそんな意味はないし、春、入学祝いに使ってもよかろうというわけです。
 そこで、

  月の菓子入学の子のえびす顔
 
 いやあ、またしても冷や汗。どうも新春から妙な雲行きです。



治定とアドバイス(1月17日)

 下に「入学の」句について書いたところ、深海魚さんから以下の訂正申し入れがありました。

  1,草餅や入学の子の昼寝顔
  2,春炬燵入学の子の昼寝顔
  3,菓子箱や入学の子の昼寝顔

 草餅、春炬燵は入学がすでに春の季語ですから「季重なり」になります。
 また、3,は切れ字「や」が発句、および裏1句目にあるので避けたい。また、「昼」は前句に出ています。
 ゆえにいっそ素直にこんなふうに直してみます。

  祝い菓子入学の子のえびす顔

 裏2句目は以下の投句がありました。

 1,バトゥ・バハへ朝霧をのみにいく        谷  章
 2,緋の長襦袢間夫(まぶ)に裂かれて          掌
 3,むかし唄ありそっと唇に            高井 朝子
 4,あなたのそばに只いたいだけ           同
 5,漬物石が湿る太宰忌                 深

 初登場の谷さんは講談社勤務の50歳ごろの男性。長く講談社文庫で旅本を作ってきた人で、特にアジア通です。このバトゥ・バハも今年正月、通算6度目に訪れたマレーシアの町の名で(彼はマレーシア語を習っています)、かつて放浪の詩人金子光晴が愛した町だそうです。
 霧が有名とか。

 この句を見ているとかつて俳壇に起ったいわゆる「熱帯季語論争」を思い起します。
 というのは「霧」は日本の歳時記では秋の季語とされるからです。が、上に書いたように作者は1月に体験しているわけだし、御当人の解説ではこの界隈は朝、霧が煙ることで知られているそうです。

 つまり熱帯とか、気候がずいぶん違う外国の場合、季語はどうするか、という問題があるわけで、すでに戦前、南方へ行った人が俳句を作る場合どうすればいいのか、またブラジルなどへ移民した人たちが俳句を作る場合どうするか、という形で起ったのが熱帯季語論争です。

 いろんな意見があったようですが、確か結局決着はついていないはずです。ただ、ブラジルではその後、「ブラジル歳時記」といったものが編まれました。現地の気候風物に応じて歳時記を作ったということです。

 私の考えでは、やはり所と気候に応じて柔軟に考えるのが一番ではという気がします。少なくとも日本の歳時記を適用するのは無意味に思えます。

 で、この句に戻れば、霧も季語とはせず、雑として扱うことにしたいと思います。それを「のみにいく」というところが面白い。付きも何か傷か憂いのある人が霧を飲みに行ったということで、何となく付く気がします。ただし、恋ではなくなりそう。

 2,は濃艶な恋模様、3,4,はほのかな、あるいは素直な恋。3,4の高井さんは北海道在住のどうやら50代くらいの主婦の方、去年メールをもらっていましたが、今回初登場です。

 5,は太宰忌(桜桃忌ともいう)が6月19日ですから夏の句となります。ちょっと早いけどここは夏にしても構いません。太宰は心中しましたから恋にもなります。

 さて、実にバラエティーに富んでいて迷います。どうしますか。
 付きはどれも成立しそうです。

 結論。ここは内容より、座の幅を広げることを考え、新人を優先、私の好きな金子光晴(『西ひがし』という詩集にバトゥ・バハが登場します)と、アジアに敬意を表して、谷さんの句を採用と独断します。皆さん、御了解下さい。

 ただし、ここは77の短句の場なので、形を整えるため、

  バトゥ・バハへぞ霧をのみにゆく

と直します。1字字余りですが。

 次はいよいよ恋です。夏にしても構いません。熱帯から夏へ移行すれば丁度いいかもしれません。では、どうぞ。
 

治定とアドバイス(2003年1月12日)

 いよいよ第2回を始めます。
 初回はオフ会として第1回の常連メンバーによって、昨11日、芭蕉ゆかりの地・神田川沿いの関口芭蕉庵並び、旧細川邸の一室にて行われました。
 それが裏の折立(おったて)まで7句です。

 以降はまた、オンラインにて参加自由の形で進行させます。
 そうして、機が熟したらまたオフ会を開き、いわばオフ会とオンラインを交互に進行させようというのが、当面の目論見です。

 さて、どうなっていくかしら。うまくいくといいのですが。

 裏折立の「駆引き」は、当初、制作時には「掛け引き」となっていましたが、こう直します。字の語感に切迫感がある気がするからです。
 次は「恋」と表示しましたが、恋にしてもいいという意味であって、必ずそうせねばならないわけではありません。
 
 また、恋は、季節としてはここでは雑でしょう。ただし、恋は2句以上5句までつづいてもいいので、進行上夏となっているあたりが恋になっても構いません。つまり夏の恋となるわけです。
 駆引きの句は、付き次第で恋の呼び出しになる可能性大です。

 「入学」の句はいま見ると、打越の「春灯り」の句と時分が同じになってしまい、本当はまずいのですが、オフ会で気付かないまま進行させてしまった捌きの責任ですので、作者から直しの申し出がない限り、このまま行くことにします。
 
 いやあ、冷や汗ものです。初めての一座と祝い酒にやや浮かれていたのでしょう。
 
 次のアドバイスとしては、打越句の「ホテル」およびその内容に障らないようにするのが肝要です。案外難しいかもしれません。
 でもまあ、頑張ってどうぞ。