濁り香 第4回


森亜人《もり・あじん》



      四

 ぼくは真由美の後ろからついていった。

 本当は庭の広さと、手入れのいきとどいた美しさに足を止めて辺りを見まわしていたかったほどだったが、先をずんずん行く彼女から離れるのが何となく不安だったので、仕方なく彼女のすぐ後ろを追っていった。

 一種類ずつ花が一箇所に植えられてあるのだが、その広さひとつ取り上げても、ぼくの家や近所の家の庭全体くらいあるのだ。

 秋桜の群落、菊の群落、向日葵の群落、木蓮の群落。その花壇と花壇とのあいだも車が擦れ違えるほどゆったりし、庭の西は雑木林が広く巡っていた。

 今ぼくが言った花も、母が社宅の狭い庭に植えてあるのと同じだから知れたことで、ぼくの知らない花の群れが整然と庭に配置されているのだ。先を行く真由美に尋ねてみたかったが、さっき金木犀のことで争ったばかりなので、また馬鹿にされるのも癪に触るので黙っていた。

 家の床はぼくの肩くらいの高さがあり、秋の陽光を余すところなく室内に受け入れていた。縁先近くにツツジの木が植えられていて、斜めに切り揃えられた姿は何ともいえない豊かさを覚えた。そうして、ツツジの木の根本を這うように池があり、それも三日月のように造られていて、庭の広大さから見ると、池はほんの手のひらくらいしかなかった。

 これほど広い屋敷なのに人の気配がない。いったい家族の者はどこにいるのだろうと、あまりきょろきょろしてはいけないと思いながら、ぼくは室内の奥に目を細めてみた。ざっと数えても十数室はあろう。どの部屋にも日光がさんさんと降り注いでいる。和室もあれば洋室もある。そして、どの部屋にも人の影はなく、重厚な家具がどっしりとこちらを向いていた。

 ぼくの家族は両親と子供が三人。部屋は三つしかなく、姉だけが頑張って自分の部屋を持っていた。こんな大きな家に住む真由美が羨ましいと思ったが、もしかしたら淋しい暮らしをしているのではないかとも思った。

 日頃、家が狭い、部屋が狭い、近所とのあいだが狭いと不平ばかりいっている姉を連れてきてやったら目を丸くして羨ましがるのだろうかと、ぼくは考えながら真由美のあとを追った。

 ぼくの住む町内ならとっくに通り抜けてしまうほど歩いてやっと倉庫らしいところに着いた。真由美はスカートのポケットから鍵の束を出すと、その一つを鍵穴に差し込んだ。倉庫といってもぼくの家より広い。ぼくは何だか少し倦怠を覚えた。何もかもが違う。さっき脱兎の如く駆け去っていった博文の家もぼくの家より小さい。きっと彼も今のぼくと同じような気持ちになって逃げ出したのかもしれないと思わずにはいられなかった。

 重い戸が開くと、真由美は振り返って顎をしゃくった。

 ぼくは怖じけづいた。やはり博文同様ここから逃げ出そうかと二歩三歩後ろにさがった。

「昇平、あんた逃げる気。博文と同じだね」

 真由美は小鼻に皺を寄せて、さも軽蔑でもするように鼻を鳴らした。とたんにぼくの心が動いた。自然に体が動き、入口に立っていた真由美を押しのけてものも言わずに中へ入っていった。

 入ってぼくは驚いた。倉庫という観念がまるきり通用しない。考えてみれば、この家の大きさからしてもふつうの感覚で押し計ることなど許されない規模だったから、倉庫とて同様に考えなければいけないのだろう。それにしても違いすぎる。ぼくは唖然としたおももちで棒杭になっていた。

「ここ本当に倉庫?」

 ぼくは少し遅れて入ってきた真由美を振り返って尋ねた。真由美はぼくに背を向け、重い板戸を左右から引き寄せて内鍵を掛けているところだった。

 三十坪くらいの広さがあり、突き当りは倉庫の入口の扉と違い、細かな細工が施された扉になっている。ここからでは離れているため、それがどんな模様なのかは見定めることができなかったが、遠目でも立派なものだと感じるに充分な扉だった。

 ということは、あの扉の向こうにも部屋があるということなのか。この部屋だけだってぼくの家より立派だ。北と南の壁の上方に窓がある。室内には何の目的もなく置かれた家具が、思い思いの方向を向いて雑然と据えられているが、どれもこれもどうして倉庫になんか仕舞込まれているのか考えられない品々だった。姉なら飛びつきそうなアップライトピアノまでが赤い布を被って隅に置かれている。

 雑然と置かれた高価そうな家具類とは別に、少し改まった風情を持った一隅が目に入った。気持の良さそうなソファの上にクッションがあり、テーブルの上には一輪挿しが庭の花だろう、一輪だけ飾られていた。読み差しの本が背を上に向けて伏せてもあった。

 ぼくはその気持よさそうなソファに座ってみたかったが、先を行く真由美が振り返りもしないで奥の扉のところへ歩んでいったので、ぼくも仕方なく彼女に従った。歩きながらテーブルや安楽椅子の背に触れるだけで我慢しなければいけないのが残念だった。

「いまのうちに言っておくけど」

 真由美はそう前置きをしてから、ぼくの目を真っ直ぐ見つめて言い添えた。

「こちらの部屋に入ったら口を利いちゃあいけない。それから、わたしがあんたのところを何かするけれど抵抗したり騒いだり逃げ出したりしてもいけない。ただ黙って静かに前を向いていること」

 真由美は、ぼくからの返答など待つ様子もなく、重い扉を開けた。

 そこは、幅四尺ほどの廊下になっていて、部屋が三つほど並んでいた。真由美は下駄を脱いで廊下に上がり、振り返ってさっきと同じように顎をしゃくった。倉庫の入口のときはただ黙っていたかったという感じだったが、今度は意識的に口を利かないという強さがあった。今もぼくに口を利いてはいけないと言ったことを自分も実行しているのかもしれないと、ぼくは内心の不安をそっと撫でながらあとに続いた。

 真由美は並んだ部屋の一番左の部屋の唐紙を開いた。真由美の肩越しに覗くと、少し厚手の絨毯が敷き詰められている部屋で、広さは十畳ほどだった。正面は白い壁で、室内には家具の一つもなく、窓一つないという穴蔵のようだった。その暗い部屋に電灯がともされ、中を覗くと、映写機が部屋の隅に置いてあるだけだった。

 真由美は、ぼくが絨毯の上にあぐらを組んで座るのを見てから、さっきと同じように、唐紙の内側にある簡易の錠前に施錠をした。ぼくは不安のおももちのほかに、封印された未知の墓を覗き見るような、体のどこかがぞくりとする感覚に思わず両手を固く握り締めて、前方の白い壁に目を当てていた。

 真由美はぼくの背後で映写機を動かしていたが、やがて壁のスイッチを押した。とたんに室内は真の闇に落ち込んだ。そして、前方の闇に小さな明かりがともったかと思うと、たちまち壁を舐めるように光が闇を浸食していき、やがて光の輪の中に物の形が現れ、音とともに数十センチの四角な画面となった。

 画面に秋の田の風景が表れた。よく実った稲穂が風に揺れている。無数のイナゴが稲穂から稲穂へとジャンプしている。画面の上のところには筋を引いたように赤トンボの群れが横切っていく。

 画面が移動して田んぼの畦道が映し出された。すると、画面いっぱいにイナゴの交尾場面がクローズアップされた。雌の背にしがみついている雄が振り落されないようにしているのが何とも哀れのようで、何とも体が熱してくるようでもあった。

 続いてカマキリの交尾だった。木の枝に掴まっていた雌の背に雄が這い寄ったかと思うと、雌を襲うように飛び乗った。ところが、雌は大きなカマを振り上げたかと思うと、たちまち雄の首を切り落してしまった。それにもかかわらず、雄は雌の背にしがみついて胴体を盛んに動かす。それが画面ではほんの二、三分のものだったが、画面下に「二時間」と書かれていたのを見て、ぼくは全身が熱くなった。

 明るい陽光の溢れるところから一変し、場面はどこかの沼のような、どこか裏寂しい風景に変った。画面が暗くて何を映しているのか初めはわからなかったが、目を凝らしていると、闇のなかで蠢くものがあった。

 それは数知れない蟇蛙の交尾現場だった。雄の蟇蛙が雌の背に乗り、前肢を雌の肩あたりに食い込ませるようにして、後肢は長く伸ばし、目を閉じている。そのような姿の蟇蛙が右を見ても左を見てもうそうそ歩いている。しかも、どの組もある方向に向かってゆっくり歩いていく。画面の右下に、「二日目の夜」と書かれてあった。

「げげげえ」

 ぼくは思わず声を発してしまった。すかさず背中に鈍い痛みを感じ、ぼくは振り返った。真由美の白い顔が目の前にあった。彼女の視線はぼくを見ていない。画面に食い込んでいるようだった。さっき門前でぼくをちらりと蔑むようにした目の色とは別人のように、真由美の目は燃えていた。

 映し出される全てが交尾の場面だった。蟇蛙のあとは海の生物になって、槍烏賊の凄絶な交尾風景もあった。雄の槍烏賊に抱き締められた雌は、ぼくの目には忍従のようにも見えたし、恍惚状態になっているようにも思えた。

 白い砂浜がどこまでも続くどこかの海岸だった。人家は映し出されていないが、きっと漁村の風景かもしれない。青い波が一定のリズムを刻むように白い砂を這い上がり、再び沖へ去っていく。幾つめかの波が打ち寄せたあとに大きな亀が海岸に現れた。おぼつかない歩き方ながら、しっかり砂を踏んで砂丘を越えていった。

 砂丘を越えた亀は自分の体が没するくらいの穴を掘り、そこへ卵を生みつけ、丹念に砂を掛けてから、もっそりとたいぎそうな動作で砂丘を越えて海に戻っていった。交尾風景ではないが、生命の息吹のようなものを感じ、熱しはじめた体の深い部分がさらに熱くなっていった。

 夜もしらじらする明け方、砂丘を越えて幾つかの小動物の群れの動きがあった。すると、夜明けの澄んだ空気を裂くような羽音がしたかと思うと、砂丘を一列で進んでいた流れに乱れが生じた。

 低空爆撃機の襲来のように次から次へと羽音が砂丘を掠める度に櫛の歯が欠けていくように、また一匹と列が短くなっていった。敵機の襲来を避け切った幼い生き物はやがて海に到達し、力強く泳いで沖に向かった。そこには無事に生まれ、無事に海へ戻ってくるのを待ち続けていた母亀が数も減った子どもたちを連れ、更に海の彼方に誘っていった。

 背後でかしゃりという音がして画面が変った。

 犬や猫の交尾風景までは覚えていたが、そのあと連続的にさまざまな動物の同じ光景が映し出されていった。ぼくは目が眩みそうだった。馬の交尾を見たときには全身が火のように燃えていた。

 気づくと、ぼくの耳元に熱い吐息が聞えた。長い黒髪がぼくの頬に被さり、厚みと温かみのある充実した真由美の体がぼくの背に密着していた。ぼくは身動きができなかった。麻酔を掛けられた全身が、ある種の期待に震えを発していた。

 画面はいつの間にか馬のそれではなく、人に変っていた。真由美の手が前に伸びてきてジーンズに掛けられ、ゆっくりジッパーが引きおろされていった。そんなことをされてもぼくの手は金縛りに会ったようだった。というより、真由美の胸に自分の体を押しつけ、彼女の手が自由に滑り込むのに都合のいい体勢を取っていた。


 二人は倉庫の安楽椅子に座っていた。さっき座ってみたいと思った一隅だった。倉庫の中央から奥の扉に近い場所で、外の重い扉からは大きな家具の陰になっていた。ビデオを見てからどのように倉庫に戻ったかよく覚えていない。

 テーブルの上に真由美が用意してくれたコーヒーが置かれている。湯気がゆらゆら立ち昇っている。マグカップの横に唐草模様の小皿に花形をした小さなクッキーが幾つか乗せられていた。

 ぼくは夢の中だった。体の交わりこそなかったが、 ―― 自分ではそう思っていたが、事実は違うかもしれない。 ―― 生まれて初めて知った男の快感に陶酔していた。テーブルの向かいに座っている真由美にとって、男との交わりが初めてとは思えないが。

 ぼくは盗み見るように半透明の幕を通して見る目で眺めていた。真由美は頬をほんのり染めていたが、今まで見たことのない安らいだ表情をしていた。それがどんな意味を持っているのかぼくには見当もつかないが、真由美が決して機嫌を損ねていないらしいことだけは心をなごませてくれた。

 真由美の鼻梁にうっすらと浮いている汗がぼくにはすがすがしいものに思えた。テーブルの向かいに座った真由美はぼくに視線を合せようとしない。恥ずかしいという雰囲気ではない。何か遠景を望見しているようにも思えたし、さっき逃げ帰った博文の後ろ姿を思い描いているようにも思えた。

 この時点でぼくは初めて博文に対し言いようのないおぞましいものを身内に覚えた。どうしてだかわからない。無性にやりきれない。涼しい顔をしている真由美に対しても何ともいえない心の騒ぎを感じた。

 夕陽がかなり傾いたらしい。南の窓に映ずる日の陰が倉庫に入ってきたときよりも弱まっていた。林の中からだろう、百舌の鋭い鳴き声が静まり返った屋敷に存在感を示すかのように鳴き立てている。

 ぼくも真由美も身じろぎもしない。テーブルの上のコーヒーが冷えていく。ぽっぽと立っていた湯気も今は微かに立ち昇るだけになっていた。ぼくも真由美も全くコーヒーに手を伸ばそうという気が起きなかった。

「昇平……」

 真由美が唇をあまり動かさないで呼んだ。ぼくは目だけを真由美に向けた。

「こりたの?」

「何が……」

 ぼくは真由美の質問の真意を理解していた。だが、そんな微妙な点について理解できる子供に大人たちは驚きとも困惑ともつかぬ表情を示す。だから、ついぼくの口癖で知らぬ振りをしてしまうのだ。

「馬鹿」

 真由美は口に出したわけではないが、彼女の口の動きでそう読んだ。

「真由美さん、博文さんに何か頼むといってたけど……」

 ぼくは彼女の矛先を変えようと、門のところで彼女が口にした博文の名を出した。

「ああ、それね」

 真由美は詰まらなそうな返事をし、テーブルの上のマグカップに手を伸ばした。もうそんなことはどうでもいいといった感じだった。

「昇平、明日ここにきな。時間は午後二時。わかったね」

 ぼくは人に命じられるのが一番の苦手だった。真由美にそう命じられても即座に頷くようなことはしなかった。

「昇平、どうして返事をしないの?」

 マグカップをテーブルに戻した真由美は、ぼくの目を覗き込んで言った。

 ぼくは、暗い部屋で行なわれた行為が体の深い部分で再現してくるのを感じ、思わず顔を赤らめた。何となく良いことではないと思ったが、知らない世界のただならぬ誘惑に抵抗しきれそうもないと意識もしていた。

「真由美さん、博文さんともしたの?」

 ぼくは聞いた。

 真由美は黙ってぼくの目をじっと見つめていた。

「どうしてそんなこと聞くの?」

 真由美はふうっと息を大きく吐いてそう言った。どこか投げ遣りな口の利き方だった。あれほど目を輝かせていたのに、本当は楽しくないのかもしれない。何か自分の心の満たされないものへの抗いだったのだろうか。

「別に……」

 ぼくは目を伏せてしまった。きっとぼくとの行為以上のことを博文としたことがあるに相違ないと確信のようなものを痛みとともに感じた。いや、たとえ博文であっても真由美を満足させることなどできないのかもしれない。真由美はあのような行為にそれほど固執しているのではないのだろう。

―― では何が真由美さんを満足させるのだろうか? 満足もしないような行為をどうしてしたがるのだろうか。 ――

 したがっているのではない。自分でも成す術を見つけられないのだ。ただ、真由美は自分に備わった美しさと、親の財力で従う者に君臨しているのだ。

 その夜、帰宅したぼくは家の中にいても不安だった。あのような事をしたぼくに何か変化が起きているのではないか、両親や姉がそれに気づいて何か尋ねるのではないかという恐れだった。家族の者たちには何の変化もなかったのだろうが、ふとした目の動きにもぼくは胸に針を刺されたようにびくついていた。

 結局、ぼくは、真由美が一方的に決めつけてきた時間を大幅に遅れて彼女の家に出掛けていった。

―― あんな女。汚らしい。 ――

 ぼくは家を出て彼女の家に着くまでそう思い、引き返すことばかり考えていた。しかし、足だけは前に進んでしまい、とうとう彼女の家の前にきてしまったのだ。門のところでうろうろしていると、通行人がじろじろ見るので、ぼくは自分の家だといわんばかりの顔をして門の横にある潜り戸から中に飛び込んでいった。

 本当はこの正門から入ってくる約束ではなかった。昨日、帰るときに雑木林の横に通じる小道を教えてもらっていた。そこからなら誰の目にもつかずに倉庫にやってこられるのだ。だが、ぼくは正門にやってきた。雑木林を縫うように走っている小道を取るのは何だか後ろめたいように思えたからだった。

 門内に入っていくと昨日と違っていた。どんな人か知らないが、あちらこちらに人の影があった。ぼくを見ても咎めるわけでもなし、さりとて無視している様子でもなかった。

 ぼくは植え込みのところで草の整理をしている老人に近づき、真由美に会いにきたことを告げた。その人は真由美のことを『お嬢さま』と呼び、軍手をはめた手を庭の先に向けた。

 倉庫の扉は細目に開かれていた。中から人声がしていた。数人くらいの声だ。博文も来ているのだろうか。ぼくは耳を澄ませた。たしかに男の声はするが博文の声かどうかわからなかった。

―― 何だ、真由美さんはぼくだけを呼んだんじゃなかったのか。――

 ぼくは少し憮然とした気分になり、そのまま帰ろうと倉庫に背を向けたが、真由美に目敏く見つけられたちまち倉庫の中に引き込まれてしまった。ぼくが入ると、真由美は倉庫の内から施錠し、ぼくが逃げるのではないかと思ってか、ぼくの腕をしっかり掴まえていた。

 やはり中学の生徒たちだった。男女三人ずつ。ぼくは唇を噛み締めた。何かわからないが、嫌な気分だった。明るい声で笑ったり喋ったりしているのに、彼らの周囲が何となく薄汚れているように見えた。

 気分は逃げたいと思いながら、体は真由美の誘うがままに皆のなかに入っていった。

 真由美は他の女生徒との行為を強要したこともある。ぼくが逆らうと

「面白いじゃないの。どこまで逆らえるかやったげな」

 と言って、他の中学生を獣のように悶えさせた女生徒に顎をしゃくった。

 八ミリを見せてくれた部屋で、真由美と二人きりで床を転げまわったこともあった。帰る道々、ぼくは何度も首を横に振った。心の奥ではそんな自分を責めているのに、真由美に命じられると、麻薬に冒された者のように出かけてしまうのだった。





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