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最近 口腔ケアと体の病気との関連性が指摘されています(インフルエンザウィルス・女性の早期低体重児出産etc)
病気の時のお子さんの口腔ケアはどんな方法でしたらよいのでしょう? とても役立つ先生からの大切なお話です


       「お口の手入れ」  群馬大学附属病院口腔外科教授  茂木健司                                                                                 

   今日はお口の手入れの話を致しましょう。

  最初にお口の機能、役割について簡単に触れますが、お口の仕事といえば何といっても栄養摂取に関係して摂食(食べ物をこぼさない)、咀嚼(食べ物を飲み込みやすい塊にする)、嚥下(飲み込む)ですが、そのほかに 会話時の発音、呼吸するための空気の通り道、そして個人のシンボルとしての顔の一部となっていることなどが挙げられます。
  こうした機能から考えますと、お口は食物によって汚れてしまいますし、眼には見えなくとも各種の細菌などが呼吸の時に入ってくるのではないかと心配になります。 
   ところで、我々の身体のうち日常、手入れが必要となる器官は極く限られていて、毛、爪、耳くらいであり、身体の他の大部分は健康である限り、何にも手間はかかりません。生きている身体は自らが自動的に自分の身体のほころびを繕っているので、全くのメインテナンス・フリーなのです。それでは同じ身体の一部であるお口だけは手間がかかるわけは何故かといいますと、先ほど指摘した心配事のほかに、お口には歯があるからなのです。
つまり歯の一番外側はエナメル質という石のような物質からできており、これは水晶のように硬く丈夫なのですが、酸には弱いのです。当然、生きた細胞ではないので身体の防御力はここまでは及びませんので、歯の面は我々が自分で手入れしてきれいにするしかないのです。 そして都合の悪いことには口の中では無数に生息する細菌は有機酸を作り出しますので、これらが歯を溶かし、いわゆる虫歯(う蝕、う歯が正しい)になりますし、歯面が汚いと、そこに住む細菌によって歯肉が炎症を起こし、歯肉炎(歯肉が赤く腫れる)や歯周炎(歯肉が腫れ、膿が出、歯がグラグラし、歯が長くなり、終いには抜け落ちる)になるということが問題なのです。
 手間のかかる甘えん坊は歯とわかりましたので、今度はその手入れについて解説いたしましょう。

  う蝕、歯肉炎、歯周炎はすべて細菌による病気ですから、これらに罹らなくするにはこれらの病気の原因となる細菌数を、病気を起こさないくらいにまで減らせばよいことになります。そこで口腔ケアの出番です。これらの病気の原因となる細菌は数種類なのですが、どれもみな歯面についた食渣、プラーク(歯面のベトベトした淡黄色の膜)に含まれる栄養や砂糖を使って増殖し、次第に水には溶けず、歯面にくっついてはがれないバイオ・フィルムとなり、ついには歯石という硬い石まで作ってしまいます。これらはいずれも細菌の塊ですから、先にお話しした病気を引き起こすので取り除かなくてはなりません。しかし、バイオ・フィルムや歯石になってしまうと歯ブラシによるブラッシングではきれいにならないので、歯科医院へ行って除去してもらわなくてはなりません。我々が自分で除去できるのは食渣やプラークの時点までです。ですからいつも口腔ケアを行って歯の面の汚れをプラーク以上にまで発展させないことが大切なのです。
  それでは食渣やプラークはどんなところにでき易く、どこをきれいにしたらよいのでしょうか。まずは歯頸部といって歯の歯肉に近い部分、歯と歯の間、歯の咬む面のしわ状の溝、歯ならびの良くないところなど、要するに複雑で込み入ったところです。それに舌の背中、つまり我々が舌を出したときによく見える面ですが、これが少し白いくらいなら健康ですが、汚い灰色をして厚くなっていたら、これは舌苔と言われ細菌の巣窟です。いやな口臭の原因になります。これら歯、舌背、義歯、扁桃を含めた口腔全体をきれいにし、細菌数を減らす必要があります。

  さて、次に具体的な口腔ケアの方法についてご説明いたしましょう。

  
一般的には歯面の清掃には歯磨剤と歯ブラシによるブラッシング、その後にできたら洗口剤による含嗽をします。歯のブラッシングは毎食後3分間くらいかけてを行います。就寝直前の清掃はとくに重要です。義歯も歯と同様に清掃します。口腔内や、外からやってきた細菌数をより効果的に減らすにはヨード製剤などの殺菌消毒剤による含嗽を併用します。
  幼少児、高齢者で介護の必要な人などに対してはガーゼを指先に巻いたり、指にはめてつかうゴム・キャップ式のブラシなどを用いてきれいにしたり、ウオーター・ピックという強い水流によって流したりします。購入に関しては、歯科医院で相談すると良いでしょう。
高齢者で舌、口腔粘膜に粘稠な唾液が付着している場合にはスポンジ・ブラシのような器具でぬぐい取ります。歯間の汚れに対する清掃には、歯間ブラシ、塗蝋絹糸など各種、市販されています。


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それでは最後になってしまいましたが、このような口腔のケアの効用についてお話ししましょう

  
幼少児、とくに2、3歳頃には、乳歯が生えそろいますし、全身の免疫能の発達との関係もあって、このころが一番、う蝕の原因菌が定着し易いといわれています。この大切な期間に砂糖を制限し、十分に口腔ケアを行えば、その人は一生、う蝕に悩まされずにすみそうです。もちろん、歯肉炎、歯周病にもご縁がなくなります。
乳歯が健康であれば永久歯がきれいに生えそろう可能性が高く、将来、歯科矯正の必要がなくなります。
こんな簡単なことで美人の用件の一つに挙げられている明眸皓歯のうちの美しい歯を手に入れることができるのです。
 
 成人の方の場合にはどうでしょうか。う蝕、もちろん、口臭を防ぐことができることになります。  
高齢者の方の場合には成人の方のところで述べた効用のほかに、高齢者の方の死亡原因の第一位とされている忌まわしい肺炎を、高率に予防できることがわかっています。
こうして
QOLに富んだ幸せな老後の生活を楽しめることとなり、急に入院などと大騒ぎをしないですむことになります。この場合には口腔内細菌数を減らす必要から、口腔ケア時に薬剤による含嗽を行うことがとくに重要です。
 
  
  そのほかにも口腔ケアは我々にとっていろいろな面で大切なことがわかってきています。

口腔内に住み着く歯周病菌は30歳代以降になると大部分の人が感染しているといわれますが、この菌は糖尿病の治療に悪影響を及ぼしますし、また心疾患、女性の早期低体重児出産など、各種全身疾患と相関のあることが示されています。さらに歯周病菌がインフルエンザ・ウイルスの感染を助けているとの指摘もあります。考えてみると、よく風邪を引いていた私が健康に暮らせているのも、このところ何年間も欠かさず、しっかりと口腔ケアを行っているからかも知れないと、口腔ケアの効用を説く者としては、ひいき目に考えたくなります。

  ちょっと趣が変わりますが、単なるガムを噛む咀嚼運動をしていると消化管手術の術後の回復に効果があること、咀嚼運動が脳の活性化を助けていること、歯がなくなるとアルツハイマー病のリスクが高くなることなど、口腔機能と全身との関連が注目を集めています。従って機能のケア、すなわち口腔機能のリハビリテーション、つまり嚥下機能の訓練などが大切であるということになります。これは食事・栄養を口から摂った場合には全身の健康が良好に維持されるということからわかってきたわけで、この点から、とくにお年寄りの方にとって食事の経口摂取に役立つ義歯に対する考え方も、人口臓器のような観点からその重要性が改めて見直されています。
このように現在、口腔ケアの概念は狭くは口腔清掃、広くは常に快適に咀嚼でき、口腔を健康な状態に維持すると言う普段の心がけから、口腔の機能維持、リハビリテーションまでを含んで考えられています。
 
 とにかく口腔ケアの効用は生活習慣の形成といった教育的、社会的な面から純医学的な面にまで広範囲におよんでいます。

 私の拙文が皆様にとって少しでもご参考になり、皆様の健康維持にお役に立てれば望外の喜びです。
 最後に皆様のお口の 、いやそれに止まらず、お身体のご健康を祈って、稿を閉じさせて頂きます。

 「おなかのけんこう、歯のけんこうから」・・・・・

        がんばっているびょうきのお子さんたちへ
         
       
 「あーあ、はやくお家にかえりたい。」 
        「はやく友だちとあそびたい。」

        びょうきとたたかっているみんなの声がきこえてきます。
        お口をきれいにしていると   きっと   きぼうにちかずきますよ。
        目にはみえないけど お口のばいきんがおおあばれして
        みんなにわるさをしているかもしれません。
           
        ちょっとめんどうでも         
        ごはんをたべたら   そして、 ねるまえ            
        きっと   歯をみがいてくださいね。
        歯をしたでさわってみると
        つるつるで   ぴかぴか    きれいになったのがわかりますよ。 

                                                                                                                       
             

       *ウォーターピック、スポンジブラシなどを入院中に使われる場合、医師・看護師に相談してからにしてください。

         ひまわり会・メールhimawari628@clock.ocn.ne.jp   

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