4.眠らない男 |
この時期のボナパルトは、がむしゃらに働いた。多量の仕事をつぎからつぎとこなして、飽きることがない。 関心は、国事にだけ向けられているようだった。 起きるのは、通常7時から8時。従僕がひげをそり、頭髪をととのえている間に、秘書がフランスやイタリアの新聞の主要な記事を読み上げる(ボナパルトはイタリア語を理解した)。イギリスとドイツの新聞は、秘書が翻訳しながら朗読した。 朝食は10時。食べるのは速かった。多忙のせいというより、性分あるいは習慣によるものである。同席する者には、ほとんど噛まずにのみこんでいるように見えたという。
夕食ですら15分から20分ぐらいですませてしまう。一般のフランス人の半分以下の時間といってよいくらい。晩餐にはじめて招かれた客は、第一統領があまりにはやくテーブルを離れるので、あっけにとられた。
このように間断なく精神を集中すれば、若い人間といえども疲れる。肉体的にも、神経も。
ベッドに入るまえにも、緊急の連絡を待っているときなどは、夜中の何時に起こしてくれと命じた。ナポレオンが一日に3時間しか眠らないという伝説は、どうやらこのへんから生まれたものらしい。 (続く) |