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物語
ナポレオン
の時代

    Part 1  第一統領ボナパルト







第1章 統領政のスタート


   2.豪腕への期待

 ブリュメールのクーデタの直後に3人の臨時統領が任命された。

 シエイエス、ロジェ・デュコ、ボナパルトである。

 前二者はこれまでの政府首脳であり、政界の古顔である。

 ボナパルトだけがいわば「新顔」だった。

 翌日、この3人による初会議がおこなわれる。

 会議というからには、議長あるいは司会する者が必要だが、シエイエスはその役が自分にふられると思い込んでいた。

 30歳の将軍は政治にはズブの素人で、若い。

 ロジェ・デュコはあごで使える相手だ。

 ところが、そのあごで使えるはずの男が部屋に入ってくるなり、いきなりボナパルトに声をかけた。

 「この場の議長を決めるのに投票するまでもないでしょう。とうぜんあなたが議長です」

 虚をつかれたシエイエスは、目をむくだけでなにもいえない。

 こうして新政府のなかで、ボナパルトがはじめから優位に立った。

 そして政界の勢力配置図は、日を追って30歳の軍人に有利になっていく。

 なぜ当時の政界がかれを嘱望したのか?

 腕力の強さに賭けたのである。

 10年まえの革命による社会混乱はいまも続き、フランスの経済は破綻したままである。

 国内はふたつの党派に分かれ、その両方が相手を憎悪してる。

 一方は、旧王制とブルボン家の復活を願う王党派。

 他方は、革命によって得た権利や財産を保持しようとするジャコバン派。

 議会では、両派を代表する議員が不毛な議論をするばかりで、有効な政策をなにひとつ打ち出せないできた

 5人の総裁からなる前政府は不安定で弱く、右に左にと揺れ続けた。

 船頭の多い船がどうなるか、分かりすぎるほど分かった。

 いまや、ひとりの強い男にフランスという船をまっすぐに漕いでもらいたい。

 ボナパルトの豪腕に期待しよう。

 少なからぬ政治家がそう考えたのだ。

                  (続く