Part 2 百日天下
第4章 鷲は飛んで行く
8.ラベドワイエール大佐の離脱
ラフレでの対決を制したあと、ナポレオンは「これで大きな山をこえた」と思ったのではないか。
パリまで行きつける確率は高くなった。
気になるのはネーの出方ぐらいである。
一行は前進を再開し、グルノーブルのすこし手前にさしかかったとき、こちらに向かってくる第7連隊と出会う。
第7連隊の指揮官は名乗りでたあと、「部下の将兵とともに、皇帝に帰順したい」と申し出た。
ラベドワイエールという名前をかねて耳にしていたナポレオンは、「この男がそうか」という顔で相手を見つめた。
簡潔な言葉で謝意を表してから、「大佐とその連隊を皇帝近衛軍に入れる」と、ナポレオンはつけくわえた。
この言葉は、ラベドワイエールの指揮する第7連隊を最精鋭部隊として処遇するという意味である。
大佐はロシア遠征とフランス戦役でめざましい軍功を上げ、陸軍のなかでも注目されている俊英。
由緒ある貴族の娘と結婚してルイ18世の宮廷でも厚遇されており、いずれ将軍さらには元帥になることは時間の問題とされている。
ところが、このエリート軍人がナポレオンに傾倒して現政府を軽蔑していた。
しかもそのことをパリのサロンで公言してはばからない。
盲目的な崇拝、というのではない。
皇帝の専制と征服の野心は問題だったと批判し、それを改めるなら部下として忠誠をつくしたいというのだ。
ジュアン湾以後の布告を入手して読んだラベドワイエールは、皇帝は好ましい方向へ政治姿勢を改めつつあると判断した。
かれはグルノーブルの兵営で、鷲の記章をつけた柳の枝をかかげながら部下の兵士たちのまえに進み出た。
「わたしは、今しがた、ナポレオンを撃てと師団長から命じられた。
われわれは皇帝と戦うべきなのか? それとも、皇帝を守るべきなのか?」
指揮官の問いかけに、兵士たちは「皇帝を守ろう!」と口々に叫んだ。
こうしてラベドワイエール大佐の第7連隊も、ナポレオンの軍勢に合流した。
(続く)