物語
ナポレオン
の時代
午後の初めにプロイセン軍が東方の地平線に出現したのに気づいたあと、ナポレオンはムートン将軍の第6軍団をその方向にさし向けていた。
一昨日、リニーの戦いに敗れたとはいえ、グナイゼナウ参謀長はプロイセン軍の主力を温存したまま退却させることに成功していた。
戦場に背を向けて逃げ出したのでない。
ウェリントン将軍と連携をとりやすい地点まで撤退しただけである。
そしていま、戦いたけなわの時ににプロイセン軍は戻ってきた。
1万の兵をひきいるムートン将軍が迎え撃たねばならぬのは、ビューロー軍団3万の大軍である。
両軍はプランスノワ村で戦闘を開始した。
兵力で劣るフランス軍はしだいに形勢不利になる。
プランスノワはナポレオンの本営ラ・ベラリアンスから東南2キロほどの距離にすぎない。
前方ではイギリス・多国籍軍と戦いながら、後方でプロイセン軍から攻め立てられる。
いわば、挟み撃ちになりかかっているのだ。
事態の深刻さに気づいたナポレオンは、とっておきの近衛部隊の投入を決める。
皇帝近衛部隊は、百戦錬磨のベテラン兵からなる「古参近衛隊」と元気な若手からなる「新鋭近衛隊」に二分されていた。
ナポレオンがプランスノワ村にまず送ったのは新鋭近衛隊である。
それだけでは足りないことがわかると、プチ将軍の指揮する古参近衛隊も派遣した。
さすがに皇帝近衛部隊は強く、30分後にプロイセン軍をけ散らしてしまう。
ナポレオンは一息ついた。
とはいえ、追い払われたビューロー軍団の背後から、ブリュッヘル総司令官のひきいる第2軍団とツイーテン将軍の第1軍団がひたひたと押し寄せてきている。
ウェリントンとブリュッヘルを分断することに失敗したのだ。
賢明なのは、ここで兵を引くことであろう。
しかし、ナポレオンは戦い続けることを選んだ。
15年まえにマレンゴでも絶体絶命の状況にあったのに、逆転勝利をおさめたではないか。
(続く)