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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

    
第5章 ドミノ倒し 

    5.議会は国王を支持

 ナポレオンが日一日と兵力を増強しつつ北上するのを、ルイ18世は拱手傍観していたわけでない。
 周囲の者は動揺していたが、どちらかといえば冷静に事態の推移を追い、王なりの対策を講じていた。
 ネー元帥に尽力は要請したものの、過大な期待はできないと内心では思っている。
 軍の基幹というべき兵士たちに皇帝崇拝者が多いと聞かされていたからだ。
 国民軍のほうがむしろ頼りになるかもしれない。

 国民軍というのは、フランス革命のときにできた市民軍のことであり、構成員は中流以上の富裕な市民が多かった。
 もともとは革命の先鋭化をめざす民衆に危機感を抱いた政府が、治安維持を目的に立ち上げた組織である。
 ブルジョワジーと名士たちこそが君主政の支持母体だ、とルイ18世は思っている。

 1814年からの復古王政では議会は二院制で、貴族院と代議院からなる。
 貴族院は3月9日にひらかれ、今回の危機で王を支持する動議を可決した。
 貴族院の議員は国王に任命されており、この結果は予想されたことである。
 代議院は、翌・10日にひらかれた。
 代議院の議員は各県の代表であるが、帝政期に選ばれた者がいまもその地位にとどまっているので、その出方が注目された。
 結果は「ルイ18世をあくまで支持する」という奉答であった。
 帝政の末期にナポレオンと議会の関係は悪かったし、議員たちはヨーロッパ全体を敵にまわす戦争に巻き込まれるのを懸念していた。
 ルイ18世が昨年6月に公布した憲章が、予想いじょうに自由主義的であったことも影響している。
 国王がさらに歩み寄りイギリス風の立憲君主政に向かってくれのでは、という期待もあったらしい。
                                                            (続く