物語
ナポレオン
の時代
敗戦を知った議員たちは狼狽した。
フランスはどうなるのか?
連合軍はどこまで来ているのか?
数多くの議員が演壇に上がり、興奮した口調でまくしたてた。
巣をつっつかれた蜂のように、代議院ぜんたいが動揺し、右往左往していた。
「擲弾兵がコンコルド広場に姿を見せたらしい。もうすぐここにやってきて、われわれを追い払うのだろう」と、まことしやかに隣席の者に耳打ちする議員もいる。
それでも時間が経過するにつれ議論はしだいに収束され、このような事態はなぜ生じたのか? だれに責任があるのか、という問題にしぼられた。
その時、ラファイエット侯爵が颯爽と登壇する。
議場はシーンとなった。
「しばらくぶりにここで発言するわたしを、自由を愛する議員諸君はまだ覚えておられるでしょう」と、かれは演説をはじめる。
「みなさん、今こそ三色旗の下に、1789年の旗の下に、自由・平等・公共の秩序の旗の下に、集まろうではありませんか。
外国の野望や国内のたくらみに対して守るべきは、この旗なのです」
ラファイエットは名指しを避けつつも、ナポレオンをとるのか、それとも自由を選ぶのかと問いかけ、つぎの動議の採択を求めた。
「フランスが危機にひんしている現在、代議院が閉会されることがあってはならない。議会を解散させようとするすべての企てを、われわれは国家反逆罪とみなすと宣言する」
この動議はじつは違法だった。
帝国憲法付加法によって、皇帝の議会解散権が認められているからである。
しかし、興奮している600名の議員たちは深く考えずに賛成・可決した。
さらに「外務、内務、陸軍、警察の4大臣はただちに議会に出向いて、質疑に応答すべし」という一文もこの動議につけ加えられた。
(続く)