Part 2 百日天下
第6章 新たな統治システム
1.組閣
ラヴァレットとコーランクールの意見を聞きながら、ナポレオンはただちに組閣に着手した。
ふたりを相談役にしたのは、10ヶ月のエルバ島生活でパリの政界事情に疎くなっているのを自覚していたからである。
強力な布陣の内閣をすぐにも立ち上げ、とりあえずは国民を安心させる。
知名度があり仕事のできる大臣をズラリと並べることだ。
自分に忠実でけっして裏切らない人間はいまも少なくはない。
問題は、そういう人間たちに大臣としての力量があるかどうか。
人事の要諦は忠誠心と能力のかねあいであるが、多くの場合、忠実な者はどちらかといえば無能で、有能な者は人に従属するのをきらう。
近くの部屋には、ブルボン家の下で不遇をかこってきた連中が大勢待機していた。
かれらは新政府の要職につきたいと願い、何時間もまえから顔を見せている。
大部分の者は失望するだろう。
エルバ島まで同行してくれたベルトラン、ドルオ、カンブロンヌなどが大臣になる可能性も、残念ではあるが小さい。
内閣のかなめの官房長官として、ナポレオンはマレを考えていた。
忠誠心と能力の両方をそなえた稀な人物なのだ。
ところが呼んで話してみると、マレは困惑した様子である。
喜んでくれるだろうと思っていたナポレオンは、ムッとした。
ぜひ引き受けてもらいたいというと、こんな条件をつきつけられた。
「ジュアン湾以後、皇帝が布告で国民に約束されたことを守らなければ、すぐに辞任いたします。それでもよいのですね?」
いいかえれば「専制政治に逆戻りするようなら、すぐ降りますよ」と、マレに釘をさされたのである。
帝政期には考えられないことである。
(続く)