Part 2 百日天下
第6章 新たな統治システム
2.思うにまかせぬ人選
モレの態度はさらに意外だった。
外相への就任を求めると「健康が思わしくないので」とあっさり断られたのだ。
それなら内相はどうか、と頼み込む。
この名門の貴公子をどうしても閣内に入れたいのだ。
モレはそれも鄭重に辞退した。
ひっこみのつかないナポレオンは、3番目に法相の椅子を提供する。モレは帝政の末期にこの地位にあった。
なんとそれにも難色を示し、土木局長にならなってもよいという。
要するに、後難を恐れて大臣にはなりたくないのだ。
ナポレオンは衝撃をうけた。
新政権が政治家・官僚たちにどんな目で見られているか推測できたのだ。
エルバ島を出たときから、前途は厳しいだろうと思っていた。
ジュアン湾からパリに快進撃しているあいだも、心のなかには醒めた部分があって、小さな懸念は消えることがなかった。
懸念が、いまや疑惑になった。
しかし、乗りかかった船である。目の前の海が穏やかでなくとも、航海に出なければならない。
モレに断られた外務大臣の席にだれを坐らせるか?
目のまえにいるコーランクールは誠実な男である。
まえに外務大臣をやってるし、駐露大使もやった。
アレクサンドル1世に信頼されているのは好材料といえる。
ウィーン会議に出ている列強との悪化した関係を修復するのは、コーランクールには荷が重いだろう。 だが有能な補佐役をつければよい、とナポレオンは判断した。
つぎに内務大臣は?
これも目のまえにいるラヴァレットに、話をもちかけてみる。
郵政総局長としての仕事ぶりはまずまずだったし、きのうから今日にかけて、国王と宮廷がチュイルリー宮殿から逃げ出したのを、いちはやく速達便で知らせてくれたのはこの男である。
(続く)