Part 2 百日天下
第6章 新たな統治システム
3.陸軍大臣はダヴー
内務大臣の椅子を提供されたラヴァレットは、つぎの理由をあげて辞退した。
「このポストには、大革命につながるビッグネームが必要です」。
たしかにこのところの民衆の興奮ぶりは、1789年の革命の雰囲気を思わせるものがある。
農民や都市の労働者は、貴族と聖職者への激しい憎悪を口ぐちに叫んでいた。
復活したブルボン王家の傲慢不遜な政治姿勢がかれらを怒らせたのだ。
ラヴァレットはそのような政治状況を考慮して内相を選ぶべきだ、と進言したのである。
そこで浮上した名前がラザール・カルノである。
大革命の初めから活躍した軍人出身の政治家で、いま62歳。
政界の長老的存在であるが、愛国的共和主義者として知られていた。
王政には明確に反対の立場であるが、過激な革命家ではない。
ナポレオンはカルノを呼べといった。
ところが、チュイルリー宮のどこを探しても見つからない。
役職を求めてあちこちに顔を出すタイプの人間ではないのだ。
呼び出し状が送られ、翌日やってきたカルノは、「このような状況で拒否することはできない」と答えた。
内務大臣になるのを承諾したのだ。
陸軍大臣も重要なポストである。
これはだれにでもこなせる職務でなく、実践の経験と軍の組織についての知識が不可欠である。
元帥たちの多くがルイ18世に仕えることを選んだので、有資格者はきわめて少ない。
そのなかのベストは、ダヴー元帥であろう。
この軍人は人当たりが悪く、上級士官にも兵士にもあまり人気はないが、優秀な指揮官である。
行政能力もそなえていて、細部に目がとどき、腹が据わっている。
ただし、ナポレオンとの関係はあまりよくない。
たがいに虫が好かないのだ。
ナポレオンはダヴーを呼んで、率直に訴えた。
「わたしはいま、列強と緊張した関係にある。すぐにも戦争がはじまるかもしれない。ガタガタになっている軍を短期間で立て直すことが必要なのだ。それができるのは、きみだけだ」
ダヴーは短く答えた、「引き受けましょう」。
(続く)