Part 2 百日天下
第6章 新たな統治システム
4.リベラリズム
問題はフーシェをどうするか、である。
本人は先刻から隣室にいて、呼び出されるのをゆうゆうと待っている。
腹の中でなにを考えているのか分からぬ男であり、ナポレオンはもはや信用していなかった。
大臣にしなければよいようなものだが、閣外におくのも危険である。
それに能力は抜群。
やつならば 自前の探知網で王党派の画策・反撃を未然に防ぐことができよう。
それにもうひとつ。
かれの名前を聞けば、国民は大革命を連想するだろう。
いろいろ考えたあげくに、フーシェを以前と同じ警察大臣にすえることにした。
意外にも、フーシェは外務大臣になりたいという。
ナポレオンは笑ってとりあわなかった。
残りのポストは法相がカンバセレス、金融担当相がゴーダン、財務相がモリアン、海軍・植民地担当相がドクレに、それぞれ決まった。
かれは統領期と帝政期に、ナポレオン体制を支えてくれた人物たちである。
安定感はあるものの、とうぜん以前より10歳から15歳ほど年をとっている。
閣僚全員を見渡しても、カルノの61歳を筆頭に高齢者が多い。
「年寄り内閣」と呼ばれるかもしれない。
年をとっただけでなく、大臣たちの考え方も変化している。
マレの場合が典型的なのだが、かれらの多くはもはや「力の政治」を信じていない。
王政復古と憲章の公布を経験したフランス国民は、帝政の二番煎じなど望んでいないと見抜いている。
この一年で、社会は大きく変わった。
以前のように「秩序」や「強いリーダーシップ」をナポレオンに期待しているのではない。
議員たち、官僚たち、実業家や地主たち。つまりは「ブルジョワジー」と呼ばれるフランスの岩盤をなす階層。
かれらブルジョワジーがいま望んでいるのは、新しい政治体制なのだ。
リベラリズム(自由主義)である。
(続く)