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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第9章 戦争へ 

   1.シャン・ド・メ

 1815年6月1日。
 陽光がシャン・ド・マルス(士官学校練兵場)に降りそそいででいる。
 空はこの日の式典を祝うかのように晴れわたっていた。
 新たな帝政のための新たな憲法を国民に知らせる「
シャン・ド・メ」が、今日ここで開催されるのだ。

 この行事を、ナポレオンはジュアン湾からパリに向かう途中のリヨンで、すでに国民に告げていた。
 そのときかれの念頭にあったのは、革命が起きてから1年後に、バスチーユ占拠を記念してここでひらかれた「全国連盟祭」のことであろう。
 この広大な敷地が、あの日は熱狂した大群衆で埋めつくされた。
 あの25年まえの民衆の熱気をもう一度とりもどして、自らの政治的パワーにしたかったのだろう。
 集会をひらくのは「5月」と明言し、シャン・ド・「メ」という名称まで口にした。
 ところが、さまざまな事情で準備が遅れ、今日6月1日にずれこんでしまった。

 会場の中央には、ふたつの巨大な階段が平坦な床でつながれるように設置されていて、それを囲むようにプレハブの殿堂がたっている。
 階段がいわば舞台であり、それに相対するように、屋根付きの観覧席が正面と左右に設営されていた。
 階段も観覧席もサイズは相当に大きいが、にわか普請の印象は否めない。

 枢機卿バイヤンヌやバラル大司教などの高位聖職者。
 マッセナ、スルト、ネー、グルシーなどの元帥たち。
 カンバセレスやロヴィゴなどの政府高官、選出されたばかりの代議院議員、地方の代表たち。
 かれらすべてが威儀を正して着席している。
 8頭立てのカロッスに乗った皇帝が会場に到着した。  
 同乗してるのは3人の兄弟だけで、国民の期待していた皇后とローマ王の姿はない。

                                              続く