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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第12章 二度目の退位 

  2.最後の閣議

 大臣たちに兄のジョゼフと弟のリュシヤンが加わった閣議は、午前10時ごろはじまった。
 結果的に、これが最後の閣議になる。

 ナポレオンは率直に敗北の事実を認め、早急に反撃態勢をとる必要があると話の口火をきった。
 フランスが一致団結すれば連合軍を粉砕することは可能と思うが、みんなの意見を聞きたい。
 そういいながら、かれは大臣たちの顔を順に見た。

 陸軍大臣ダヴーと内務大臣カルノそれにリュシヤンは、皇帝がフリーハンドでこの難局に立ち向かえるために議会をとうぶん休会にせよと主張した。
 皇帝には憲法でその権限があたえられている。
 外務大臣コーランクール、法務大臣カンバセレス、官房長官マレは、あくまで議会と協調しながらやるるべきで、そのように極端な手段をとることには反対という意見だった。

 沈黙を続けるフーシェに、全員の視線が向けられる。
 警察大臣は「皇帝の不運に同情いたします」という短い前置きのあと、ダヴーやカルノと大同小異の意見を述べた。
 腹の中では、ここはナポレオンの退位しかないと判断していたが、自分で猫の首に鈴をつける気はさらさらない。

 国務大臣ルニョー・ド・サン・ジャン・ダンジェリーがそのとき発言した。
 表情を曇らせながら「皇帝のご意向を議会が受け入れるとは限らないし、ここは大きな犠牲を‥‥」と語尾をにごす。
 ナポレオンはルニョーを凝視した。
 ルニョーは「ブリュメールのクーデタ」以来の忠実な部下であり、昨年4月以降もブルボン王家に仕えようとしなかった。
 自他ともに認める皇帝支持者である。
 「ルニョー、はっきりいえ。議員たちはわたしの退位を望んでいるのか?」
 ナポレオンはそう尋ねた。
 「陛下、そうではないかと危惧しております」

 海軍・植民地担当大臣のドクレも、ルニョーと大同小異のことを述べた。
 一座は静まりかえる。
 ナポレオンは重苦しい口調で語りはじめた。

                      続く