Part 2 百日天下
第6章 新たな統治システム
6.だれに憲法を作らせるか
新しい政権の軸足をブルジョワ階級の上におくのであれば、ブルジョワたちの望む自由主義的な憲法が必要になる。
そのための準備委員会を立ち上げたのだが、時間がかかりそうだった。
ナポレオンは外部の専門家に委嘱することを思いつく。
ブルジョワジーのリベラリズムを理論的に代弁できる人物はだれか?
いまいましいが、やはりスタール夫人であろう。
知名度がなんといっても高い。
ナポレオンは兄のジョゼフやラヴァレットなどを介して、夫人とコンタクトをとらせた。
夫人はにべもなく断ってきたという。
長いあいだ自分を追放しておきながら、いまになって協力してくれというのは勝手すぎるというのだ。 「皇帝はいま苦境にある。ここは寛容なお気持ちでなんとか助けていただきたい」と鄭重に頼んでも、こう切り返されたのだという。
「わたしがどんなにボナパルトを憎んでいるか。それを知っていただきたいのです!」
やむを得ず、スタール夫人に親しいバンジャマン・コンスタンに声をかける。
こちらは喜んでチュイルリー宮殿にやってきた。
二人は、余人を交えずに、じっくり話し合う。
ナポレオンの口調はくだけたものだった。
「わたしも年をとった。四十五になれば、三十のときと同じわけにはいかない。
立憲君主制でのんびりするのが、いまのわたしに向いているのかもしれない。
息子にとってその方がいいのは確実だ」
皇帝から対等の相手として扱われたコンスタンは、有頂天になり、その場で憲法の起草を引きうけた。
2人が面談したことが新聞に出ると、世間は驚く。
驚いただけでなく、憤慨する者もいた。
有名な自由派の論客が、敵であるはずのナポレオンに協力するとは!
コンスタンに決闘を申し込んだ男もいたくらいである。
(続く)