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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

    
第6章 新たな統治システム 

    7.風見鶏コンスタン

 自分の言動に整合性がないのを、あまり気にしない人間というのは存在する。
 バンジャマン・コンスタンは1年ほどまえに刊行した『簒奪の精神と征服』で、ナポレオンを「征服の精神」の持ち主と呼び、王位を不当に簒奪した者と決めつけていた。
 この本は一定の注目をあびたので、かれは反ナポレオン的立場の評論家として売り出し中だった。
 ごく最近も『ジュルナル・ド・パリ』や『ジュルナル・デ・デバ』などの一流紙に、パリに迫りつつあるナポレオンをアッチラやジンギスカンのような独裁者だと叫んでいた。
 それらの記事でコンスタンが主張していたのは、ナポレオンの復活をなんとしても阻止せよということである。

 ところが、である。
 それから一ヶ月もたたぬというのに、同じ人間が皇帝の要請を唯々諾々として受け入れ、新しい憲法の作成に協力するのを約束した!
 そのうえ、数日後には参事院評定官に任命された。
 いいかえれば、ポレオン政府の要職につき、高給をもらう身分になったのだ。

 パリの多くのサロンでは「あまりに節操がない!」という反撥の声があいつぎ、コンスタンの評価はガタ落ちになった。
 かれにも言い分はあるのだろう。「わたしはいつもリベラリズムを守るために戦ってきた。こんど皇帝に協力するのは、自由主義的な憲法を書いてくれと依頼されたからだ。なんらやましいことはない」
 そう弁明するかもしれない。
 しかし、コンスタンほどに頭の良い男なら、ナポレオンのいう「自由主義的な」憲法が、便宜上のものにすぎないのを見抜いていたはずである。
 要するに、野心につき動かされてころんだのだ。
 自己顕示の機会を逃したくなかったのだろう。

                        続く