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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第12章 二度目の退位 

   6.とどめの一撃

 リュシヤンは演壇に上がって、兄から託されてきた声明文を読んだ。
 「連合軍との交渉はもうすぐ開始されるだろう。いま必要なのは団結であり、わたしは議会の協力と愛国心を期待している」
 さきほどのルニョー・ド・サン・ジャン・ダンジェリーの演説とほぼ同じ内容だった。

 ひとりの議員が発言した。
 「連合軍はわが国を敵視しているのでない。ナポレオン個人を敵視しているのだ。
 皇帝が権力を放棄すれば、フランスは救われる。皇帝は退位すべきだ」
 歯に衣をきせぬこの言葉に、リュシヤンがむっとする。
 「ここにきて皇帝を見捨てるというのか!
 そのような態度を移り気、無節操というのだ」
 議場はざわめいた。

 このとき議席で立ち上がったのが、
ラファイエットである。  
 「とんでもない中傷だ。フランス国民がナポレオンにたいして無節操?
 よくもそんなことをいえるものだ。
 フランス国民はエジプトの砂漠にも、ロシアの荒野にも、ナポレオンについて行った。
 その結果300万ものフランス人の生命が失われた。
 われわれは十分すぎるほどにナポレオンに尽くしてきた。
 いまは祖国を救うのが、われわれの義務なのだ!」
 嵐のような拍手がわきあがり、リュシヤンはなにもいえず演壇で立ちつくす。

 そのあと何人もの議員がつぎつぎと演壇に上がり、皇帝はただちに退位すべきだと追い打ちをかけた。
 リュシヤンと4人の大臣は、憮然としてエリゼ宮に戻る。

 結局、議会でナポレオンにとどめを刺したのはラファイエットである。
 じつをいえば、この大貴族はフーシェに踊らされていた。
 二人はこの日の朝に会っており、警察大臣は内密の情報を伝えるとともに、国民軍司令官のポストをちらつかせて相手を誘っている。
 ラファイエットは専制君主を倒す仕事が自分にまわってきたことに満足し、晴れの舞台を勇み立って演じた。
 が、これ以後の展開を見れば、フーシェに利用されたあとで、古いスリッパのように捨てられたことがわかる。
                                                                  (続く