物語
ナポレオン
の時代
傾斜面をさらに上っていくと、そこは前線であり、ネー元帥や将軍たちが見えた。
ネーは憤怒の形相で、馬上から兵を叱咤している。
乗馬をすでに4頭失っていて、いま乗っているのは5頭目。
突撃をいくども試みたのだが、頑強な抵抗に阻まれ、残った兵を集めてはまた襲いかかる。
それをくり返していた。
ナポレオンの姿を認めると、駆け寄ってきて叫ぶ。
「歩兵隊がほしい!」
近衛部隊4個大隊がネーの下に組み込まれた。
この間にウェリントン将軍も、モン・サンジャン高地の防御態勢を厚くしている。
待ち望んでいたプロイセン軍がついに到着したので、左翼を固めていた部隊を中央にまわすことができた。
イギリス軍近衛部隊は、高地の屋根の裏側に身をひそめていた。
敵の砲弾から身を守るためと、フランス軍近衛隊の襲撃にそなえて、最後の瞬間まで隠れているためである。
フランス側から高台を望むと、見えるのはイギリス軍の数名の将校と何門かの大砲だけ。
フランス軍近衛兵たちは自信をもって、整然と縦隊をくみ、頂上への最後の数メートルを登りきった。
その時、英語の命令がひびく。
「スタンダップ、ガーズ!(近衛隊、立て!)」
ライ麦畑に伏せていた1500名のイギリス軍近衛隊が、すくっと身を起こす。
無人と思われた場所に、銃をかまえた敵兵がとつぜん現れたのだ。
「撃て!」の号令で、赤い制服の男たちがいっせいに撃鉄をひく。
フランス軍近衛兵は至近距離から撃たれ、バタバタと倒れた。
縦隊の後ろのほうにいる者たちは、急いで外側に広がり、横列をくみ、マスケット銃をかまえる。
イギリス軍が2度目の銃撃をした。
この距離で狙いがはずれることはなく、前列のほうにいるフランス軍近衛兵は前進もできず、後退もできず、立ちつくしたまま虐殺された。
(続く)