Part 2 百日天下
第8章 内憂外患
7.国民志願兵
代議院の議員の多くは、皇帝の権力が増大して専制に移行するのを警戒していた。
こうした中産階級(ブルジョワジー)の議員たちと一線を画するのが、農民・労働者・小市民などの庶民層である。
かれらはむしろ皇帝が強くなるのを望んだ。
ヨーロッパの列強がもうすぐフランスに攻め込んでくる、と肌で感じていたのだ。
プロイセンやベルギーに近い東北部のアルザス、シャンパーニュ、アルデンヌなどの諸地方では、「祖国を防衛しよう」という、大革命時を思わせる機運が若者や壮年の男たちのあいだで盛り上がっていた。
ところがである。
5月中旬、フランス西部のヴァンデ地方で王党派が武装蜂起した。
この地方では以前からいくども反政府運動が起きているが、今回の武装蜂起はイギリス政府に後押しされたものだった。
対仏連合国のメンバーとしては、敵国フランスの武力をなるべく分散させたいのだ。
ヴァンデに隣接するブルターニュの他の地域やアンジュー地方では、国内秩序を乱す王党派勢力に対する敵愾心が男たちのあいだに生じた。
ブルターニュの町や村の代表約1500名がレンヌに集まり、「祖国の防衛」と「公的秩序の維持」のために、たがいに団結して戦おう」 という協定を結んだ。
歴史家はこれを「連盟運動」と呼び、この運動への加担者を「連盟兵」と呼ぶ。
平たくいえば、連盟兵とは「国民志願兵」あるいは「義勇兵」である。
少なからぬ庶民階級の男たちが、皇帝のために外国軍や王党派の反乱軍を相手に、自発的に戦いたいという意思表示をしたのだ。
この連盟運動はブルターニュを越えて、急速にブルゴーニュ地方やブルボネ地方に広まっていく。
パリにももちろん波及して、サン・タントワーヌやサン・マルセル界隈の労働者たちは、場末の広場に集まって「皇帝を守ろう」「裏切り者を監視しよう」などと叫んで気勢をあげた。
(続く)