Part 2 百日天下
第8章 内憂外患
8.国民軍
この時期のフランスには「国民軍」という組織があったが、これは正規の軍隊でない。
大革命初期につくられたもので、自衛と治安維持のために、初めはパリの中流以上の富裕な市民によって構成されていた。
初代の司令官はラファイエットであり、かれの努力でフランス各地に国民軍が形成され、やがて全国的に統一される。
その規模はかなり大きく、ナポレオン帝政期には10万人程度にまで膨れあがっている。
王政復古時代も国民軍をそのまま保持された。
1815年の春に、各地に「連盟兵」(すなわち志願兵)が続々と名乗りを上げるのを見て、政府はじつは困惑していた。
というのも、労働者や小市民を中心とする今回の志願兵が、ブルジョワ・貴族中心の国民軍と競合・対立するのではないかと懸念した。
つまりは、階級間の反目を恐れたのだ。
ナポレオンの受けとめかたは微妙で、「連盟運動はわたしにとって良くないが、フランスのためには良い」といった。
なんとも曖昧な態度である。
5月14日、チュイルリー宮殿まえの広場で、皇帝のまえを1万2千の連盟兵が行進し、その代表が「国土を防衛するための武器を、われわれに与えよ」と請願した。
ナポレオンはかれらの勇気をたたえ、小銃を与えようとその場では約束した。
が、武器は正規軍の兵士たちにすら十分に行きわたってないし、民間人を安易に武装させるのは危険である。
最悪の場合は、内乱の引き金になりかねない。
独裁政権であれば、やってやれないこともない。
内乱の気配が生じたら、手荒な手段で武器を回収することができるからだ。
しかし、リベラルな議員たちが多数を占める現在の議会が、そうしたやり方を是認するとも思えない。
というわけで、ナポレオンは志願兵を歓迎し、激励するかのポーズはとったものの、内心では迷惑していた。
さしあたって武器を与えるつもりもない。
(続く)