Part 2 百日天下
第8章 内憂外患
4.しらを切るフーシェ
オッテンフェルス男爵は、探りをいれるための雑談をしばらくしたあとで、こういった。
「わが国や同盟国が倒そうとしているのはナポレオンであって、フランス国民ではありません。両者は別なのです」
フルリー・ド・シャブロンはフーシェの部下を装いながら、まわりくどい表現を使って答えた。
「オトラント公爵(フーシェの貴族名)は大部分のフランス国民と同じように、いまや皇帝を心から支持しておられます。皇帝を倒そうとする企てには関心がありません」
男爵は顔には出さなかったが当惑した。メッテルニヒから聞いていた話と違うではないか。
ふたりは1週間後の再会を約束して別れた。
パリでは、フルリー・ド・シャブロンが発った4月28日に、警視総監レアルがそのことをフーシェに報告に行った。
レアルには皇帝を裏切っているという意識がなく、上役に当たる警察大臣が窮地に立ちそうだと推察して、注進に及んだのだ。
フーシェはすぐにチュイルリー宮殿にでかけた。
この痩せて骨ばった男は、なにくわぬ顔で皇帝の部屋に入ると、国内情勢についての説明をはじめた。 そのうち額を軽くたたきながら、屈託ない様子でこう呟く。
「ああ、そうそう、陛下に申し上げるのを忘れてましたが、メッテルニヒから手紙を受けとっております。なにしろ、いろいろと用事があって忙しかったものですから。それに使いの者が手紙の文字を読むための粉末を渡してくれませんので、かつがれたのかとも思ったのです。まあ、そういうわけで、今日その手紙を持ってまいりました」
ムッとしたナポレオンは、どなりつけた。
「おまえは裏切り者だ! 縛り首にさせてもいいぐらいだ!」
陰気な顔の表情をまったく変えることもなく、フーシェはいい返す。
「わたくしは陛下と意見をことにしております」
(続く)