Part 2 百日天下
第8章 内憂外患
5.ラファイエットの復活
警察大臣がいんぎん無礼な態度をとったことは、この時点での両者の力関係を反映している。
ナポレオンはどんなに腹を立てても、フーシェをくびにできない。
危険な男なのだが、とにかく有能であり役に立つのだ。
すでに述べたように、帝国憲法附加法が公布されてからというもの、皇帝の人気は下降中。
戻ってきた皇帝に「革命の体現者」や「革命の利益の擁護者」を期待していた民衆は、にがい失望を味わいつつある。
そうした国民感情の推移を、フーシェはみずから張りめぐらしたアンテナでキャッチしており、皇帝の2度目の退陣はかなり早くなると判断していた。
事実5月におこなわれた代議院選挙の結果も、ナポレオンにとって好ましくないものである。
これは新憲法にもとづいて実施された選挙なのだが、全議席629のうちの約500議席を、リベラル派議員が獲得したのだ。
残りは、ボナパルティストが約80議席、ネオ革命派が約40議席である。
いいかえれば、ナポレオンを絶対的に支持する議員の数は全体の10パーセント強に過ぎない。
どちらかといえば敵対的なブルジョワ階級を代表する議員たちが80パーセントに近い比率を占めている。
その多数のリベラル派議員のなかで、ひときわ異彩をはなつのがラファイエット侯爵であった。
アメリカ独立戦争の英雄にして、フランス革命初期の国民軍司令官。人権宣言の起草者のひとり。
もっとも、そうしたことは30年以上も昔の話で、フランス国民の多くは「両世界の英雄」と呼ばれたこの大貴族をあまり覚えていない。
とはいえこのラファイエットが、以前からナポレオンにつよい反感を抱いていた。
(続く)