Part 2 百日天下
第8章 内憂外患
6.強腰の議員たち
帝国憲法付加法では立法府の第1院が「貴族院」であり、第2院が代議院である。
つまり代議院が下院に相当する。
招集された議員たちは、代議院の議長にランジュイネを、副議長にラファイエットを選出した。
ランジュイネは議員歴の長いベテラン政治家。
1789年の憲法制定議会いらい一度も落選することなく議員であり続け、近年は反皇帝派政治家として知られいる。
ナポレオンが終身統領になることに反対したし、皇帝に即位することにも反対した。
この3月には、復活した皇帝に忠誠を誓うことを拒否している。
いわば、筋金入りのアンチ・ナポレオンである。
代議院の副議長は4人で、そのひとりにラファイエットが選出された。
この大貴族が、なかば「過去の人」とはいえ、その高い知名度にもかかわらず副議長にしかなれなかったのはなぜか。
実務政治家というより夢を追う理想家肌の人間と見られていたからだ。
それにしても、代議院は思い切ったことをしたものである。
ランジュイネとラファイエットを選ぶことで、皇帝にひとつの意思表示をしたのだ。
その意味を理解したナポレオンはカッとなる。
「かれらはわたしを侮辱し、この危機的な状況でわたしの力を弱めようとしている。よろしい。それなら議会を解散しよう」
かれは気色ばんでそう宣言した。
帝国憲法付加法の第21条にはつぎの規定がある。
「皇帝は代議院を休会し、延長し、または解散することができる」
だが、ナポレオンはじっさいには解散にふみきれない。
周囲の者に強い不快感をもらしはしたが、躊躇したあとで譲歩した。
議長・副議長をそのまま承認したし、議会の初日には議場に出向いて開会のスピーチもした。
なんとしても代議院の支持がほしかったのだ。
(続く)