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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第9章 戦争へ 

  8.カトル・ブラの攻防

 シャルルロワの東にはナミュールがあり、そこもプロイセン軍の拠点である。
 またシャルルロワの北方50キロほどに位置するブリュッセルには、ウェリントン公爵の指揮するイギリス軍と各国混成軍が集結している。
 この両軍の合流をどうすれば阻止できるか?
 ナミュールとブリュッセルを結ぶ交通の要衝カトル・ブラを、フランス軍が押さえてしまえばいい。
 その任務を、ナポレオンはネー元帥に委ねた。
 同時に、第1軍団と第2軍団の指揮権も元帥に与えた。

 ネーは大軍を率いてカトル・ブラに向かうが、そこにはイギリス軍がいて砲撃してきた。
 イギリス軍は4000人ほどに過ぎなかったのだが、ネーは大規模な縦隊が後続していると勘違いし、あっさりシャルルロワに引き返してしまう。
 翌・6月16日、ナポレオンから「全力をあげてカトル・ブラを占拠せよ」という命令が改めて発せられた。
 ところが、フランス軍がベルギーに入ったという報告をうけたウェリントンは、すばやく守備隊を増強させていた。
 この日も、フランス軍はすこし攻撃しては撃退され、それをいくども繰り返すだけ。
 なすすべもないまま日没を迎え、後方に退いてしまう。

 ネーがいたずらに遅疑逡巡しているのに、ナポレオンは苛立っていた。
 せっかくつけてやった第1軍団と第2軍団も活用されていない。
 じつは第1軍団のドルエ・デルロン将軍も、第2軍団のレイユ将軍も、ナポレオンからネーに出された命令の内容を知らされてなかった。
 もしも参謀長がベルチエであれば、そのことを両将軍にただちに伝達したはずである。
 今回の参謀長スルト元帥は、すぐれた指揮官ではあるのだが、ベルチエのような細かい気配りのできる性格ではない。

 それにしても「勇者のなかの勇者」と呼ばれたネーの勇敢さはどうしたのか?  
 まだ46歳だというのに、フランス軍のエースはすでに老いたのか?

                                   続く