Part 2 百日天下
第4章 鷲は飛んで行く
4.復古王政の要人たち
翌・3月5日、ナポレオンの小軍勢はシストロン経由でガップに着いた。
この町でも、これまでと同じように、ドルオ将軍が住民たちのまえで『フランス国民に告ぐ』を朗読してきかせた。
ところで、パリに「ナポレオン帰国する」の報が届いたのは、この3月5日の夕刻である。
ジュアン湾上陸からすでに4日たっている。
ウィーンより2日早く伝わっているが、距離的にパリのほうがウィーンより近いし、なんといっても同一国内である。
南仏方面軍総司令官マッセナは、この報告に接したとき誤報ではないかと疑い、内容の確認に時間を空費した。
そのためパリに急送文書を送ったのは3月3日である。
文書はリヨンまで飛脚が運び、そのあとは例のシャップ式信号機が送信した。
枢密院書記長ヴィトロール男爵は、急送文を受けとると、ただちに国王に会って報告する。
ルイ18世はさして驚いた様子もみせず、「陸軍大臣にこれを届けてくれ。必要なことはかれがやってくれるだろう」と、指示した。
陸軍大臣はスルト元帥である。
ナポレオンの部下のひとりだったが、いまではブルボン王家に仕えている。
ヴィトロールからニュースを知らされると、スルト元帥は信じられないという顔をした。
軍事的に無謀すぎる企てだと思ったのだ。
警察長官のダンドレは、ナポレオンが南仏の官憲にすぐにつかまってしまうと予想し、国王に向かってしゃあしゃあといった。
「ろくでなしのボナパルトが愚かにもフランスに戻ってきました。神に感謝しなければなりません。銃殺。それでもう煩わされることがなくなります」
警察長官ほどに楽天的でないヴィロトール男爵は、討伐軍を南仏に送ることを考えはじめていた。
相手は前皇帝であり、しかるべき人物に総指揮官になってもらわなければなるまい。
王弟アルトワ伯爵をおいてほかに適任者はいない。
(続く)