Part 2 百日天下
第4章 鷲は飛んで行く
5.ネー元帥の大言壮語
3月6日、ルイ18世は閣議をひらいて対応策を講じた。
王の大臣たちは両院をすみやかに召集することに同意し、王が用意した勅令の文言を了承した。
その勅令とは、「武装して王国領内に侵入したボナパルト」は「謀反人であり、反逆者である」。それゆえに、行政当局ならびに軍当局はボナパルトとその一味を拘束すべし、というもの。
翌日、ルイ18世はネー元帥をチュイルリー宮殿に呼び、南仏に上陸し北上中のボナパルトの討伐を命じた。
ナポレオンには勇敢な部下が数多くいるが、なかでもミシェル・ネーは「勇者のなかの勇者」」とたたえられた軍人である。
戦歴でとくに有名なのは、モスクワ遠征に失敗したフランス軍が敗走したとき、最後衛にあって敵の追撃をしのぎにしのいだこと。
戦場でもっとも難しいのは、敵軍に押されて退却するときだという。
この任務をネー元帥はみごとにやりとげた。
しかしながらネーは昨年4月フォンテーヌブローで、ナポレオンに軍事的敗北を受け入れ、ここは退位すべきである、と激しく迫った。
かれだけでなく他にも数名の高級士官が同じ主張をしたが、中心となったのがネーだった。
ナポレオンにとっては、背後から短剣を刺されたようなものであろう。
信頼していた部下に裏切られたという苦い気持ちを抱いたにちがいない。
その間の事情を、フランス国民と同じように、ルイ18世も知っている。
だからこそ、ことさらにネーを選んで、ナポレオンを迎え撃ってくれと親しげな口調で頼んだのだ。
国王から頼りにされていると感じたかれは、衝動的に口走った。
「陛下、承知いたしました。やつを鉄の檻に入れて連れ帰りましょう」
当時、国事犯はつかまると鉄の檻に入れられて町中をひきまわされ、群集に嘲笑され罵倒されるならわしだった。
ルイ18世は驚いたらしく、口数少なくこう答えた。
「そこまでは求めないがね‥‥」
(続く)