Part 2 百日天下
第4章 鷲は飛んで行く
6.シストロンからラフレへ
ナポレオンの小軍隊に気がつくと、初めのうち村や町の住民は驚いていた。
多くの者はとまどった顔をし、どっちつかずの態度を示す。
それがディーニュに着いたあたりから、すこしずつ変化が出てきた。
これまでに通った集落でかならず読んできかせた『フランス国民に告ぐ』が、効果をあげてきているのだ。
ナポレオンはこの布告のなかで、革命精神の継続、国民主権、平和などを守ることを約束していたが、それが口伝えで広まっている。
3月5日、小軍隊はシストロンをへて、ガップに着く。
皇帝の姿を見たいという農民が、この町にかなり多く集まって来ていた。
翌日の朝、ナポレオンはかれらに向かって短いスピーチをした。
「封建的な王はフランスにふさわしくない。この国に必要なのは、革命の精神を継承する君主である。その君主とは、わたしだ。」
農民たちはうなずきながら拍手した。
皇帝を助けたいといって、小軍隊の左右を囲んで歩き出す者もいる。
農村には除隊させられた兵士が数多くいて、かれはじっとしていられなくなって駆けつけたのだ。
そうした自発的応援者を含む若い農民の数は日を追って増えて、行軍のじゃまになるほどである。
ジュアン湾に上陸してから3月6日まで、ナポレオンはなんの抵抗にも遭遇せずに、ここまで前進できた。
国王軍が出動しなかったからである。
しかしもうすぐ到達するグルノーブルには、第7師団が駐屯している。
これまでのようなわけにいかないだろう。
その第7師団の師団長のマルシャン将軍は、ナポレオンと断固戦うつもりでいた。
ルイ18世に忠誠を誓ったし、その誓約を遵守する決心である。
ところが閲兵してみて、士官はともかく兵士たちの士気が低いことに気がついた。
皇帝と敵対することにためらいを感じているようである。
マルシャン将軍は、比較的に質が高いと思われる第5戦列大隊を選び、南方のコールに派遣して迎撃させることにした。
指揮官はドレセール少佐であるが、念のため自分の甥であるランドン少尉を補佐役につけた。
(続く)