物語
ナポレオン
の時代
前日に雨が降らなければ、ナポレオンはもっと早く戦争をはじめていたし、そうすれば勝っていただろう。
そう考えたフランス人は、歴史家も含めて、多い。
文豪ヴィクトル・ユゴーもそのひとりで、こう書いている。
「1815年6月17日から18日へかけての夜に雨が降っていなかったら、ヨーロッパの未来は変わっていた。
「ワーテルローの会戦は11時半まではじめられず、それがブリュッヘル将軍に戦場にかけつける時間をあたえた。
なぜそれまで待たなければならなかったのか?
地面がしめっていたからだ。
砲兵が働くけるために、土地がすこし固まるのを待たなければならなかった」
「かりに地面がかわいていて、砲兵が動けたとしてみよう。
会戦は朝の6時にはじまっていたはずである。
戦いは午後2時にナポレオンの勝ちとなって終わり、プロイセン軍が戦局を動かせるまでに3時間もあまっていたのだ」
(『レ・ミゼラブル』 第2部)
たしかに、前日の大雨はフランス軍にマイナスに作用した。
重い大砲を移動させるのが難しくなったし、騎兵隊や歩兵隊が濡れた斜面を上に向かって進むのは容易でなかった。
とはいえ、11時半まで待ったというのは、待ちすぎかもしれない。
6月18日といえば夏至に近く、ベルギーでは午前4時に太陽が昇る。
数時間で地面はある程度かわくはずである。
速攻のために多少の危険を冒す、というのがナポレオンの戦争原理のはずではなかったのか?
ウェリントン将軍は、幕僚とともに午前9時には例の楡の木のそばに陣取り、戦闘開始を待っていた。
敵がいっこうに攻撃してこないのが理解できず、いぶかしげに望遠鏡をのぞき込んでいた。
ナポレオンが悠長にかまえて動かなかったのはなぜか?
自信過剰から、という説がある。
何時にはじめようと勝てる、と楽観していたというのだ。
が、それ以外にも理由はあったのでは?
(続く)