Part 2 百日天下
第7章 ナポリ王ミュラ
1.ミュラの軽挙妄動
すこし前からイタリア半島で気にいらぬことが起きていて、ナポレオンは苛立っていた。
ミュラが3月18日にオーストリアに宣戦布告して、ナポリ軍4万をすでに発進させたのだという。 3月18日といえば、ナポレオンがネー元帥と再会していたころで、まだパリに到達していない。
ルイ18世の軍隊がどう出てくるかも不透明な時期である。
それなのに、ナポリ王は早々と戦争をしかけている!
エルバ島を出るまえに、わざわざ密使を送って「こちらから指示する前に独断専行しないように」と釘をさしておいたのに、どうしてこんなことになったのか。
ナポレオンは舌打ちした。
ここ当分は列強諸国とコトをかまえたくない。
いずれは戦わざるをえないとしても、いまはその時期でない。
頭に血が上りやすいあの男は、わたしが南仏に上陸したと聞いただけで、じっとしていられなくなったのだろう。
しばらくすると、ナポリ軍がリミニに入ったという情報がもたらされた。
そのあたりに駐屯するオーストリア軍は多くなく、やすやすとアドリア海に面する町まで達したのだという。
ミュラはこのリミニの町で「イタリア人よ、祖国統一のために決起せよ。国土を支配する外国勢力を追い払おう」と、威勢よく呼びかけたらしい。
派手な軍服に身を飾り、颯爽と演説するナポリ王に、住民の多くはやんやの喝采を送った。
ウィーン政府はいまのところ静観しているが、遅かれ早かれ大軍を南下させて迎撃するだろう。
戦力的にオーストリア軍がミュラの軍隊を上回るのは間違いない。
焦燥にかられたナポレオンは、ベリアール将軍をイタリアに派遣して戦況をさぐらせ、同時に自分の考えをナポリ王に伝えさせることにした。
ベリアール将軍は以前ミュラの参謀長をしたことがあり、ロシアではその指揮下に戦ったこともある。 それにしても、このような軽挙妄動は迷惑千万。
ヨーロッパ全体が、わたしと義弟のミュラが示し合わせて動いてると考えることだろう。
(続く)