物語
ナポレオン
の時代
昼食後に北の方角のワーヴルに向けて出発したグルーシー軍のもとに、午後3時半、参謀本部からの命令が届いた。
これはスルト参謀長が午前10時(ということは、戦闘の開始以前)に伝令士官に手渡したもので、じつに5時間半もかかっている。
地図の上で17〜18キロにすぎない距離に騎乗の伝令がこれだけの時間を要したのは、雨で道がぬかるんでいて、途中にディル川があり、そのうえ道に迷ったせいだった。
「皇帝は貴官がワーヴル方面に進軍することを望んでいる。われわれの方に接近し、作戦に呼応するとともに、連絡ととりやすくするためである」
グールシー軍を呼び戻す必要はないと一度はスルト に言明したナポレオンも、プロイセン軍を追跡しつつ自軍に接近してくれるのであれば、それに越したことはないと考えたようである。
そのグールシーは ワーヴルに着くやいなや、ヴァンダム将軍の第3軍団に敵軍を攻撃せよと命じた。
これより先、プロイセン軍のブリュッヘル総司令官は、追跡軍がやって来るのを知らされたが、自ら応戦するつもりはさらさらなく、主力軍を率いてモン・サンジャンに全速力で向かった。
というわけでヴァンダム将軍が相手にしたのは、ブリュッヘルが遮蔽用に残していった15000人ほどの軍勢に過ぎない。
午後5時ごろ、スルトからのこの日2度目の命令がグールシーに届いた。
「貴官は、いかなる敵軍をもわれわれの間に入りこませぬようにし、こちらに向かって移動しながら本隊に近づくべきである。その方向は指示しないが、貴官のほうでわれわれの現在地を確かめ、貴軍とわが軍の連結を保持するように努められたい」
この命令は午後1時ごろ、戦場にプロイセン軍が出現したことに気づいたあとで出されたもので、4時間ぐらいの速さで届いている。
(続く)