物語
ナポレオン
の時代
執行委員会の顔ぶれと各人が獲得した票数は、以下のとおり。
代議院からは、カルノ、324票。フーシェ、293票。グルニエ将軍、204票。
貴族院からは、コーランクール、52票。キネット、48票。
票のいちばん多かったカルノは、自分がとうぜん委員長になると思って最初の会合をセットした。
その晩のうちに他の4人の委員へ「明日内務大臣室に集まっていただきたい」という通達を出したのである。
内務省はグルネル街にあり、そこの大臣室がこの3ヶ月間かれの執務室である。
フーシェはこの通達を無視した。
逆にカルノと他の3名の委員に「委員会の構成をきめるために、明朝8時にチュイルリー宮殿にご参集しただきたい」という連絡をした。
このあたりがくせ者フーシェの真骨頂で、カルノのペースをかく乱しようとしたのだ。
グルニエ将軍は軍の代表として選ばれているが、政治的実績はほとんどなくナポレオンとの関係もあいまいである。
コーランクールは軍人あがりの外交官で、誠実実直というだけの男で御しやすい。
キネットは長く議員をしているが、可もなく不可もない人物。
いってみれば、この3人は端役にすぎない。
いくらかでも警戒しなければいけないのは、カルノのみ。
自分以上に政治経歴が長いうえに、公安委員会のメンバー、総裁政府の総裁、陸軍大臣などの重要ポストにもついたことがある。
しかも清廉潔白で知られ、議会でも一目おかれている。
執行委員会という名の臨時政府を思うがままに仕切りたいいフーシェにとって、カルノに委員長になられては具合がわるかった。
そこで重要になるのが、最初の会合である。
(続く)