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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第12章 二度目の退位 

   9.フーシェの出番

 執行委員会の顔ぶれと各人が獲得した票数は、以下のとおり。
 代議院からは、カルノ、324票。フーシェ、293票。グルニエ将軍、204票。
 貴族院からは、コーランクール、52票。キネット、48票。

 票のいちばん多かったカルノは、自分がとうぜん委員長になると思って最初の会合をセットした。
 その晩のうちに他の4人の委員へ「明日内務大臣室に集まっていただきたい」という通達を出したのである。
 内務省はグルネル街にあり、そこの大臣室がこの3ヶ月間かれの執務室である。

 フーシェはこの通達を無視した。
 逆にカルノと他の3名の委員に「委員会の構成をきめるために、明朝8時にチュイルリー宮殿にご参集しただきたい」という連絡をした。
 このあたりがくせ者フーシェの真骨頂で、カルノのペースをかく乱しようとしたのだ。

 グルニエ将軍は軍の代表として選ばれているが、政治的実績はほとんどなくナポレオンとの関係もあいまいである。
 コーランクールは軍人あがりの外交官で、誠実実直というだけの男で御しやすい。
 キネットは長く議員をしているが、可もなく不可もない人物。
 いってみれば、この3人は端役にすぎない。
 いくらかでも警戒しなければいけないのは、カルノのみ。
 自分以上に政治経歴が長いうえに、公安委員会のメンバー、総裁政府の総裁、陸軍大臣などの重要ポストにもついたことがある。
 しかも清廉潔白で知られ、議会でも一目おかれている。
 執行委員会という名の臨時政府を思うがままに仕切りたいい
フーシェにとって、カルノに委員長になられては具合がわるかった。
 そこで重要になるのが、最初の会合である。

                     続く