Part 2 百日天下
第3章 ウィーン会議
3.獅子の分け前
ウィーン会議といえば、だれもが「会議は踊る」ということばを連想する。
しかし、ワルツに熱心だったからといって、各国代表のすべてが本来の仕事を忘れていたわけでない。
列強の外相たちは領土問題などの重要な討議を原則として午前中におこなっていたし、メッテルニヒはその議長だった。
君主たちは午後にホーフブルク宮殿に集まって、大臣たちがすでに決めたことを確認し合っていた。
重要テーマはまず列強(すなわち大国)の間で話し合う、というのが暗黙の了解事項である。
にもかかわらず、メッテルニヒは何食わぬ顔で大国間の会議の席にフランスの代表であるタレーランを招いた。
なるほどフランスは人口や国力一般では大国といえる。
しかし敗戦国なのだ。
メッテルニヒは会議でもっとも難しいのが、ポーランドとザクセン王国(現在でいえばドイツ東部の州に相当する)の領土問題であるのを知っていた。
ロシアがポーランドに野心を抱いている。この機会に併合して西側に発展したいのだ。
ザクセン王国を狙うのは、プロイセン。
ナポレオンに友好的であったザクセン王国に不快感をもち、復讐心から自国の支配下におきたいと思っている。
ロシアとプロイセンはいちはやく共同戦線をはった。
戦勝国としての「獅子の分け前」を要求したいのである。
他方オーストリアは、この両国の言い分をのむ気などまったくない。
ポーランドは自国の北東に、ザクセン王国は北西にぴったりと隣接しており、そこにロシアやプロイセンが進出してくるのは迷惑だからである。
当初は明確なことをいわず、様子をさぐっていたイギリスの外相カスルレーは、ヨーロッパの「勢力の均衡」の観点からオーストリアに味方する。
オーストリアとイギリスのチームが、ロシアとプロイセンのチームに対立する構図である。
2対2の膠着状態に入ってしまうのか?
ポーランドとザクセン王国の問題についてタレーランがどう考えているかを、メッテルニヒは知っていた。
もっと正確な言い方をするなら、この旧知の外交官からそれとなくほのめかされていたのだ。
だからこそ、列強間の会議にタレーランを招いたのである。
(続く)