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物語
ナポレオン
の時代

       Part 3 セント・ヘレナ

   
第3章 総督ハドソン・ロウ  

   7.誓約書


  誓約書問題が以前からこじれていた。
 これは、すでに述べたことだが、
「ブオナパルテ将軍に課されるのと同じ拘束を甘受して、みずからの意志で島にとどまる」という内容の文書である。
 提出そのものはすでになされていた。
 随員と召使い全員がそれに署名して、4月にプランテーション・ハウスに届けてあった。

 ただし、かれらは文中の「ブオナパルテ将軍」を「皇帝ナポレオン」に書き換えた上で署名している。 イギリス政府はこの書き換えを認めなかった。
 その部分を元のように直してから再提出せよ、というのがバサースト植民地担当大臣の要求である。
 随員も召使いたちもそれをあくまで拒否してらちがあかない。


 10月の上旬、ロウ総督の代わりに副総督格のリード中佐がロングウッドにやってきて、誓約書にすぐ署名しなければ、ベルトラン夫妻と数名の召使いを除いてすべての者を島から追い払う、と通告した。
 ナポレオンは「こんな誓約書に署名するよりも、全員がわたしを置いて帰国するほうがよい」といいだす。
 すったもんだのあげくに、あくまで皇帝の肩書きに固執する召使い
サンティーを除くすべの者が誓約書に署名した。

 それからしばらくして、プランテーション・ハウスから追放者リストが送られてきた。
 署名を拒否したサンティーニに加えて食器係のルソー、馭者のアルシャンボー弟、ポーランド人ピオントコウスキー大尉。
 以上の4名である。

           続く

 サンティーニは他の召使いと違って兵士あがりで、島ではナポレオンの頭を刈ったり、靴を修理したりする「何でも屋」でした。
 コルシカ生まれで、熱烈な皇帝崇拝者でもあります。
 かれが最後まで誓約書にサインしなかったのは、どうやら主君と示し合わせた上のことで、ヨーロッパに戻ったら宣伝工作をせよと命じられていたようです