本文へスキップ

物語
ナポレオン
の時代

   



プロローグ 
ブリュメール18日のクーデタ






5.窮地に陥る

 クーデタはすんなり成就したわけでない。
 それどころか、もう少しでしくじるところだった。
 
 初日のブリュメール18日には、ことはスムースにいった。
 ところが二日目の19日に、強硬な反対勢力が出現した。
 五百人会のネオ・ジャコバン派議員たちである。

 ジャコバン派というのは、革命期にもっとも左よりだった急進的グループである。
 恐怖政治で知られるロベスピエールは、このグループの指導者だった。
 ネオ・ジャコバン派はその流れをくむ党派である。

 ボナパルトはみずから五百人会の議場に行って、かれらを説得しようとした。
 これが逆効果になる。
 議員でない人間が、たとえ有名な将軍であれ、招かれもせずに議場に入ったことに憤慨したネオ・ジャコバン派議員は、きつい野次をとばし、罵声を浴びせた。
 それだけでなく、演壇に突進し、若い将軍につかみかかった者たちもいる。

 ボナパルトは小柄で痩せている。
 勇気はあるが、肉体的には非力だ。
 こづきまわされ、もみくちゃにされ、気が遠くなった。
 あっという間のできごとで、議長席に座っている弟のリュシヤンもどうしようもない。
 クーデタは、このとき、挫折しかけた。
(続く