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物語
ナポレオン
の時代

       Part 3 セント・ヘレナ

   
第2章 ロングウッド 

   6.プランテーション・ハウス

 ロングウッドから西方に5キロほど行ったところに、総督府のプランテーション・ハウスがある。
 イギリスの富裕な中産階級が田舎に所有する別荘のような建物で、二階建てである。
 入り口には半月形の白い柵があり、建物の周囲には手入れの行き届いた芝の庭園が広がり、緑の樹木が立ち並んでいる。
 ラス・カーズは、そこに行くと自分がヨーロッパにいるような気分になる、と書いた。
 ナポレオンの従僕マルシャンは、プランテーション・ハウスが皇帝の住まいとして提供されなかったことに、つよい不満を抱いた。

 イギリス側がナポレオン一行をロングウッドに居住させたのは、もっぱら警備上の理由からである。
 数年前に島に暴動が起こり、暴徒がロングウッドに住む東インド会社の副支配人を襲って人質にするという事件があった。
 暴動が鎮圧されたあと、屋敷の防備が強化された。
 周囲に石垣をめぐらし、正面入り口には見張り小屋を建てた。
 谷をへだてた向い側の
デッドウッドには、何棟かのバラックをつくり、警備兵が常駐できるようにした。  
 こうした施設がナポレオンを監視するのに大いに役立つ、と判断されたのである。

 総督府をナポレオンに引き渡して、自分たちがよそに移るという考えなど、コックバーン提督の頭に一瞬たりとも浮かんだはずがない。
 それでは、夏期を除けば気候の悪いロングウッドに住まわせたのは、イギリス側に邪悪な魂胆があったからなのか?
 そうもいえない。
 というのも、主君が死ぬまでの5年半そこに暮らしたベルトランとモントロンは、フランスに帰ったあと、一方は70歳まで、他方は69歳まで生きた。
 当時としては平均的な、あるいはそれ以上の死亡年齢である。
 やはり主君のそばに最期まで留まったマルシャンは、じつに84歳の長寿をまっとうしている。
 こうしたことから考えて、ロングウッド
がとくに不健康な土地とはいえない。
                               (続く

 デッドウッドは、ロングウッドから目と鼻の先にある台地ですが、イギリス陸軍第53連隊の約600名の将兵が宿営しています。
 司令官はビンガム将軍。
 ノーサンバランド号でナポレオンと同時に島に着任していました。  
 デッドウッドだけでなく、ジェームズタウンにも第66連隊の700名が駐屯していました。
 ナポレオンひとりのために、イギリス政府がいかに神経をつかったかがよくわかります。