Part 1 第一統領ボナパルト
第5章 陰謀
5.ブルボン家のプリンス
レアルがふくろう党員(シュアン)を訊問したときに得た情報のひとつは、かれらがブルボン家のプリンスの到着を待って行動に出る、ということであった。
その「プリンス」とはプロヴァンス伯の弟アルトワ伯、もしくはその息子ベリー公であろう、と政府内の多くの者は考えた。
二人とも目下イギリスに滞在している。
プロヴァンス伯は最近はロシア西部のミタウに逗留しているし、アルトワ伯の長男アングレーム公はポーランドにいるらしい。
いずれも遠隔の地である。
すでに述べたことだが、この1月にノルマンディー半島に接岸したイギリス船に、王族がだれひとり乗っていないことに、カドゥーダルはいたく失望した。
じつはアルトワ伯が土壇場でためらい、「たしかに成功すると思われるときまで帰国はしない」といいだしたのだ。
この人をそらさぬ愛想のいいプリンスは、肝心のときに限って優柔不断に陥った。
とはいえ、フランスの警察にそうしたことが分かるはずがない。
アルトワ伯とベリー公に絞って対策を練っていたときに、タレーランがボナパルトの耳元で囁いた。
「プリンスというのは、アンギャン公のことではありませんか?」
タレーランによれば、公はライン川対岸のバーデン公国エッテンハイム村に居住しているという。
フランス国境から24キロの場所である。
アンギャン公はブルボン家の古い分家コンデ大公家の末裔で、いま32歳。
大革命のときに亡命し、コブレンツで祖父コンデ大公の率いる亡命貴族軍で戦っており、高潔な人格と勇敢さによって、ブルボン一族のエースと目されている。
たしかに、王党派が担ぎ上げても不思議ではない貴公子である。
(続く)