本文へスキップ

物語
ナポレオン
の時代

    Part 1  第一統領ボナパルト

   
 第5章 陰謀

   8.国王殺し

 フーシェがアンギャン公の拉致に賛成したのは、それによって第一統領と王党派の関係が悪くなると判断したからだ。
 ボナパルトの口ぶりでは、公をパリにつれてくるだけでなく、処刑まで考えているようだ。
 国民がアンギャン公の処刑を知ったら、大きな衝撃をうけるだろう。
 王党派はもちろん憤激する。そしてボナパルトを不倶戴天の敵と見なすだろう。
 そうした事態はむしろよろこばしい
 両者の間に、修復不能なひびが入るほうがいい。  
 というのも、「国王殺し」のフーシェはもともと王党派から憎悪されているのだ。  

 国王殺し(レジシッド)は当時よく使われたことばで、フーシェの場合は
ルイ16世の裁判で死刑に賛成して「国王殺し」になった。
 カンバセレスはこの裁判のときにあいまいな態度をとり、ためらったあとで大勢に従うかたちで死刑に賛成した。
 だからかれも国王殺しである。
 タレーランはこの時期に国外にいたので、この件にはコミットしていない。

 話を3月10日の会議に戻せば、アンギャン公の拉致に否定的な態度をとったのは、カンバセレスと法務大臣レニエである。
 とりわけカンバセレスが、つよく反対した。
 法律家のかれは、公が陰謀に関与したことを示す明白な証拠はなにひとつないと指摘した。中立国バーデンで公を拉致すれば外交上の問題になるともいった。  
 たいていのことではボナパルトに追随する第2統領が、このときは一歩も譲らない。
 しかし、ボナパルトは聞く耳をもたなかった。
 会議の終了を告げると、部屋の外に待たせていた陸軍大臣ベルティエと二人の将軍を呼んだ。
 そしてライン川周辺の地図を机上に拡げると、2個分隊を出動させる命令書を口述しはじめる。
                                                         (続く)