断章 帝政期
4.内政面の実績
ナポレオンは帝国貴族だけでなく、宮廷には旧貴族(アンシャン・レジームの貴族)を積極的に迎えて厚遇した。
しかし、かれらは一種の飾りにすぎない。
統治のために重用したのはむしろ「第三身分」の人間だった。
つまりは、中産階級の出身者。
能力重視主義は、第一統領時代からの一貫して変わらぬかれの方針だった。
有能な官僚たちを使いこなしながら、皇帝ナポレオンはどんな仕事をしたのか。
まず行政改革の推進。
統領政期に「県知事」のポストを新設して地方行政をコントロールできるようにしたことは、すでに述べた。
新皇帝がつねに追求したのは、中央政府の拡充と充実である。
新しい省を設置し、命令と服従のシステムを整備し、職務上の責任の所在を明確にした。
よくいわれるように、フランスの近代的な官僚制度の原型はナポレオンの時代につくられたのである。
つぎに教育改革。
ブルボン王朝のフランスには、国が国民を教育するという発想が希薄だった。
大革命後に教育制度の変革がはじまったが、変革の度が過ぎて混乱が生じていた。
ナポレオンはそうした行き過ぎを是正するとともに、軍事部門と文民部門の両方で、フランスの指導者を育成しようと考える。
この意図のもとに中等教育の改革をした。
有名な「リセ」は、この時代に創設されたものである。
なお高等教育の制度設計もおこなったが、初等教育にはほとんど関心を示していない。
特筆すべきは公共事業である。
軍用道路をふくむ多くの道路がフランス全土につくられ、数多くの港湾事業がおこなわれた。
とりわけパリには運河や卸売り市場が建設され、いたるところ泉水や街灯が設置された。
こうしたもろもろの工事が、フランス経済を大いに活性化させたのは確かである。
ところで、以上の行政改革・教育改革・公共事業は、ナポレオンが皇帝にならなければできなかったのか?
そんなことはない。
第一統領の身分のままでも、りっぱに遂行できたはずである。
(続く)