プロローグ ブリュメール18日のクーデタ
1. 英雄の帰国
1799年10月、ボナパルト将軍は兵士たちを率いてエジプトから急きょ帰国した。
南仏フレジュスに上陸したのは10月9日。
この英雄をひとめ見ようと、フレジュスの住民たちは船を出して、沖に停泊する艦隊に向かった。
軍艦の舷側から乗り込んで、甲板にいる兵士たちに握手を求めたり、歓迎のために抱きついたりした。
当時のフランスでは、東洋から来た船客に一律40日の検疫隔離を課していた。
ボナパルト将軍の小艦隊はアレクサンドリアから出港したのだから、検疫の対象になる。
港湾の検疫官は艦上にひしめく住民たちにペストの危険を説明し、艦からおりて波止場に戻るように促した。
が、興奮している群衆は聞く耳をもたない。
「オーストリア兵やイギリス兵よりペストの方がましだ!」などと怒鳴ってる。
検疫官は肩をすくめた。
すでに大勢の市民がエジプト帰りの兵士たちと濃厚接触している。
いまさら、どうしようもない。
こうしてボナパルト将軍はその日のうちにフレジュスをたち、一路パリに向かった。
(続く)