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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第13章 亡命 

   7.ロシュフォール

 ロシュフォールは大西洋に注ぐシャラント川の河口に面した町。
 19世紀初頭には活気ある海軍基地だった。
 ラ・ロシェルから南に60キロほど、ボルドーの北140キロほどに位置する。

 ナポレオンは海軍の軍管区長官邸にひとまず身を寄せた。
 ボンヌフー長官が挨拶のあとですぐ報告したのは、海上6海里ほどのところにイギリスの軍艦が現れ停泊していることである。
 その軍艦ベレルフォン号はアブキールやトラファルガルの海戦の生き残りで、老朽艦ではあるが75門の大砲を搭載している。
 政府ナポレオンのために用意したフリゲート艦よりも大型艦であり、戦闘能力にも秀でている。
 ボンヌフー長官は、通行免状がまだ届いていないことも報告した。
 じつは連合国側から拒否されたのだが、そのことをしばらく伏せておくよう政府から命じられていた。

 イギリス軍艦がにらみをきかせている事実と通行免状の不着を知らされたナポレオンは緊張した面持ちになる。
 ただちに側近・随員たちを呼んで相談に入る。
 現地の海軍幹部なども呼び寄せ、意見を求めた。
 近くのエクス島に投錨中のラバイヤデール号の艦長ボーダンは、2隻のフリゲート艦で強行突破をはかるべきでしょうと進言した。
 兄のジョゼフは、アメリカに行くつもりで自分がボルドーで調達したブリッグ帆船に、ナポレオンとその随員が偽名で乗船してはどうかと提案する。
 港に停泊中のデンマーク船の船長はフランス人で、空の樽に皇帝を隠して出港することができると申し出た。

 ナポレオンはいずれの案にも同意しない。
 偽名を使うとか、樽に身を隠すというのが、品位に欠けるようで気に入らなかったのか。
 相当数に膨れあがった随員とその家族の安全を考慮する必要があったからなのか。
 あるいは、たんに決断力に欠けていたからなのか。

                          続く