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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第13章 亡命 

   6.私利私欲

 フーシェはフランス語でいえばレジシッド(国王殺し)である。
 革命時にルイ16世の処刑に賛成したという過去をもつ。
 ブルボン王家が復権すれば、自分が王党派からどのような目で見られるか。
 かれはそれを承知しており、そうした場合に備えて手も打ってあった。
 ルイ18世の側近ヴィトロール男爵に恩を売って、手の内の駒にしておいたのだ。

 数日まえに自宅に男爵を招いたフーシェは、まわりくどい表現で打診した。
 「ブルボン家を再復活させるために努力するのはやぶさかでない。かりにうまく行ったら自分をしかるべく処遇してもらえるか」
 感触は上々だった。
 会談は和気あいあいの雰囲気のなかで終わる。
 こうして20年まえのレジシッドは、後顧の憂いなくルイ18世の復位を画策できるようなった。

 「パリに迫ったプロイセン軍ともう一度戦いたいので、指揮をとらせてほしい」というナポレオンからの希望はこのような状況下に届いた。
 フーシェにとっては迷惑以外のなにものでもなく、きっぱりと拒否した。
 ベケール将軍からそれを聞いたナポレオンは驚いた様子で、こう呟く。
 「あの連中は、人の心がどう動くのかわかっていない。わたしの名前は将官・兵士に大きな影響力があるのだ。あとになって悔やむことになるだろう」

 この日の夕刻、前皇帝の一行はマルメゾンを出発した。
 ようやくフランスを離れる決心がついたのだ。
 平服姿のナポレオンが幌つきの軽四輪馬車に乗り込み、ベケール将軍、ベルトラン将軍、ロヴィゴ公爵が同乗した。
 ラルマン将軍、グルゴー将軍、ラス・カーズなど他の多くの部下が、べつの馬車で後を追う。
 これらの随行員のなかで軍人でないのはラス・カーズだけであるが、この人物は以後の展開で重要な役割を演ずることになる。

 一行はランブイエ、トゥールを通過して、7月1日にニオールに到着。
 そこで兄のジョゼフ、ベルトラン夫人、モントロン夫人、相当数の召使いなどが合流する。
 かれらの馬車が目的地ロシュフォールに着いたのは
7月3日だった。
                                        (続く