Part 2 百日天下
第8章 内憂外患
1.第7次対仏大同盟
ミュラがナポリ軍を率いてイタリア半島を北上中というニュースは、ウィーン会議に参加している列国首脳にとって小さな驚きでしかなかった。
かれらが関心をもったのは、ナポレオンとの連携のもとにナポリ王が行動しているかどうかの一点。
それ以外のことはどうでもよかった。
3月12日にナポレオンを弾劾する宣言(→「8カ国の共同宣言」)を出したあと、列国首脳は3月25日にも、追い討ちをかけるように、「反ナポレオン同盟」を正式に結んだ。
この同盟は、英・墺・露・普の4カ国によるもので、歴史家によって「第7次対仏大同盟」と呼ばれている。
フランスと戦うときには同盟国のそれぞれが15万人の軍隊を出す、という申し合わせがこの同盟の核心である。
単純に足し算をすれば、英・墺・露・普による供出兵力の計は60万人。
フランスはいぜん大国ではあるが、たび重なる戦争で疲弊しているので、どんなに兵隊をかき集めても15万から18万ぐらいだろう。
たとえナポリ王国の軍隊をそこに加えてたとしても、20万から22万どまり。
兵力的にいって、対仏同盟軍のほうが圧倒的に優勢なのだ。
だからウィーンに集まっている各国首脳は、フランツ1世とメッテルニヒは別として、かなりの余裕をもって、イタリア半島の軍事的展開を傍観していたのである。
もっとも、15万人の兵力を出し合うというのはあくまで建前であり、各国にはそれぞれ苦しい台所事情がある。
短期的にはそれだけの動員をするのは、どの国にとっても難しい。
だから現実に対仏同盟軍を編成するまえに、これらの列強はフランスの政界と軍の実情についての正確な情報を欲しがった。
具体的には、ナポレオンの権力基盤はしっかりしているのか。
士官や兵隊の質はどうなのか。士気は高いのか。武器や馬は十分にあるのか。
これらのことを詳しく知りたい。
そうした情報の供給源として、各国首脳が狙いをつけたのがジョゼフ・フーシェである。
(続く)