Part 1 第一統領ボナパルト
第6章 裁判
4 独房内の不審死
ピシュグリュがモローと会ったのは、王党派の企てるボナパルト打倒計画に加わるように促すためだった。
現役の将軍モローが首を縦にふってくれれば、軍のかなりの部分を抱きこめる。
そうなれば、ことは半ば成就したも同然である。
ところがモロ−は、期待に反して、言を左右にして態度を明らかにしない。
王党派のカドゥーダルと組むのがいやだったらしい。
2月1日、改めて話し合いがなされたが、煮え切らない態度は同じ。
2月6日には、カドゥーダルを交えての三者会談がおこなわれれたが、モローは最後まで言質をあたえなかった。
王党派の当てがはずれたのである。
それからしばらくして、シャバネ街の隠れ家にいたピシュグリュは、憲兵たちに寝込みを襲われた。家主に密告されたのだ。
モローと同じようにタンプルの監獄に収監され、連日のようにレアルに尋問される。
ピシュグリュはカドゥーダルとのつながりを否定し、モロー将軍には最近会っていないといいきり、第一統領を倒す陰謀などいっさい知らない、と答えつづけた。
尋問がはじまって一ヶ月半ほどした4月6日未明、かれが独房で死んでいるのが看守によって発見される。
黒い絹のネクタイが首にまかれていた。
首をくくって(あるいは、くくられて)死んだのだ。
当局は自殺と発表する。
世間はピシュグリュがだれかに殺され、自殺のように見せかけられたと噂した。
ことの真相は、結局つまびらかにならない。
不思議なことに、現在にいたるまで真相は不明である。
ピシュグリュが自殺したのであれば、ボナパルト打倒計画が失敗したことに絶望したからであろう。他殺とすれば、口封しのためである。
政府中枢に陰謀への加担者がいることや、ボナパルトの過去のあることないことが、法廷で暴露されるかもしれない。
そうしたことを懸念して、当局が消したというわけである。
(続く)