Part 1 第一統領ボナパルト
第8章 戴冠式
9.絢爛たるスペクタクル
ナポレオンとジョゼフィーヌの乗るカロッスは、金色に塗られ、6頭立て。座席のクッションは純白のビロードである。
同乗しているのは、ジョゼフとルイ。2人はいまやプリンスと呼ばれる身分である。
廷臣や女官の乗る多数のベルリーヌ馬車が後に続く。
行列はチュイルリー宮からノートルダム大聖堂までのわずかな距離を行くのに1時間ほどかけた。
めったにない豪華なスペクタクルを民衆に存分に楽しんでもらうために、ゆっくり進んだのである。
人出で路上はごったがえしていたから、速度をあげようとしても無理だったかもしれないが‥‥
正午まえになると、雲の切れ目からときおり陽光がさした。
ノートルダムの脇にある大司教館に入った皇帝と皇后は、そこで式典用の衣装に着換える。
ナポレオンは、帝冠をいだくまで、とりあえず黄金の月桂冠(古代ギリシャのイメージ!)をかぶる。 首まわりにはレースの襟飾りをつけ、白サテンの長衣をまとい、その上にアーミンの毛皮で裏打ちされた緋色のマントをはおる。
長衣の裾には金の房飾り、マントには金の蜂が全面に刺繍されている。
胸は黄金の鷲をつないだコリエで飾り、その中央にレジオン・ドヌール勲章の最高位であるグラン・テーグル。
ジョゼフィーヌの式服にも同じ材質と刺繍が用いられているが、女性は勲章をつけない。
胸はレースで飾り、ダイヤをちりばめた冠をかぶっている。
かの女のまとうマントは、まえに説明したように、たいへん長くて重い。
後刻セレモニーの最中に、裾を支え持つエリザ、ポーリーヌ、カロリーヌが、不注意からか故意にか、手をはなしてしまったため、後ろにつよく引っ張られたジョゼフィーヌはのけぞり、ころびそうになったほどである。
(続く)