Part 1 第一統領ボナパルト
第7章 ナポレオン法典
8.相続権
民法典の保守的で現実主義的な側面を示すもうひとつの例として、相続法の「嫡出でない子」の権利をとりあげる。
「嫡出でない子」とはなにか?
夫婦の間で生まれた子は「嫡出子」と呼ばれ、それ以外のすべての子が「嫡出でない子」であり、さまざまな場合が想定される。
第1に、夫婦が結婚前にもうけた子、たとえば「未婚の母」の子。民法典では「自然子」と呼ばれる。
第2に、結婚後に夫または妻が、配偶者でない者との間にもうけた子、いわゆる「婚外子」である。
古めかしい言葉では「不義の子」。今ふうにいえば「不倫の子」。民法典では「姦生子」と呼ばれる。
第3に、配偶者でない近親者の間の子、すなわち近親相姦で生まれた子。民法典では「近親子」と呼ばれる。
というわけで、「嫡出でない子」には自然子、姦生子、近親子などが含まれるが、このうち民法典が相続権を認めるのは、認知された自然子だけである。
姦生子、近親子には相続権そのものが与えられず、認知することも禁じられている。
認められるのは、扶養料を与えることのみ。
また、認知された自然子の相続分は、嫡出子の3分の1にすぎない。
もし嫡出の子がなく、被相続人の父母あるいは兄弟姉妹が相続人になる場合には、2分の1になる。
さらに、嫡出の尊属も卑属もいなくて、兄弟姉妹もいない場合には、4分の3になる。
これはまえにも書いたことだが、革命法では相続に関して「嫡出でない子」にも嫡出子と同じ権利を認めていた。
それと比較すれば、1804年の民法典では嫡出でない子の相続権は小さくなっているし、姦生子や近親子には相続権自体があたえられていない。
この差別はどこからくるのか?
民法典のスポークスマンというべきポルタリスは、こう説明している。
相続権は「自然の権利」でなく、国家の実定法の定める「社会的権利」である。
そして社会的権利は他の社会的諸制度に背馳してはならない。
嫡出でない子は「真の相続人」でなく、「不正規相続継承人」なのであるから、嫡出子と同等の権利を主張することはできない。
これを要するに、民法典が相続権における嫡出子の優位を認めるのは、婚姻制度の尊重のためであり、それが良俗の維持と社会の利益に資すると考えるからである。
(続く)
日本ではどうか?
フランスで「嫡出でない子」と嫡出子の間の相続上の平等化が実現したのは、
民法典ができた1804年から数えて168年たった1972年でした。(た
だし、「嫡出でない子」から姦生子と近親子は除かれます)
日本ではどうでしょう?
「嫡出でない子」の相続分が嫡出子と同等になったのは、2013年(平成2
5年)12月から、つまり昨年からです。
この問題に関して最高裁の判決が出たときには、新聞やテレビ等で大きく報道
されましたから、ご存じの方も多いことでしょう。