Part 1 第一統領ボナパルト
第4章 フランス vs. イギリス
11.最後通告
それから1ヶ月ほどたった3月13日。
チュイルリー宮殿で各国外交団を迎えてのレセプションがあった。
この日は、ジョゼフィーヌのアパルトマンが会場に当てられている。
挨拶するために近寄ってきたイギリス大使に、ボナパルトはいきなり浴びせかけた。
「イギリスは戦争をしたいのだろう!」
ウィズワースは冷静な態度をくずさない。
「いいえ、そんなことはありません。わが国は戦争をするにはあまりにも平和の恩恵を享受しております」
「われわれはすでに15年間戦ってきた」
「もうこりごりです」
「しかし貴国はさらに15年戦争をやりたがっている。わたしが戦わざるをえないようにしむけてる。イギリスは条約を尊重していない。貴国が軍備を整えるのであれば、わたしも軍備を整える。貴国が戦おうとするなら、われわれも戦う。
条約を尊重しない者に、災いあれ! フランス国民を殺すことはできてもひるませることはできない!」
レセプションの会場は静まりかえり、各国の外交官たちが聞き耳を立てていた。
第一統領がすぐカッとなるのは、周知のこと。
部下の高官、たとえば参謀長のベルティエを面罵するところなどを多くの人間が見ている。が、怒りが長引くことはほとんどない。
発作がおさまるように、すぐに消えてしまうのだ。あとかたもなく。
ボナパルトの怒りはしばしば演技であった。
政治的な目的で、大勢の人間のまえで立腹してみせるのである。
この日のイギリス大使をまえにしての憤慨も、みせかけのものであったのかもしれない。
いずれにせよ各国外交団は、この日のフランス元首の言動をことこまかに本国政府に伝えた。
(続く)