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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第13章 亡命 

  1.迫りくる連合軍

 この間にも、対仏連合軍はじわりじわりとパリに接近していた。
 ブリュッヘル将軍のプロイセン軍は、コンピエーニュからクレーユに迫りつつある。
 コンピエーニュはパリの北80キロほど。クレーユは60キロほどに位置する町。
 闘志あふれる老将軍は「ナポレオンを一日も早くつかまえて縛り首にしてやる」と、意気軒昂たるものだった。

 他方イギリス軍のほうはあまり急がず、カンブレあたりをゆっくり南下していた。
 ウェリントン将軍の状況判断は政治的で、ここは急ぐ必要がまったくないと考えている。
 ワーテルローの勝利は完璧だったし、フランス軍はとうぶん立ち直れないだろう。
 ナポレオンは失脚するだろうし、新しくできるフランス政府がどう出てくるかを見定めるべきだろう。
 ブリュッヘル将軍のようにパリでの決戦などしたいと思わない。
 自軍兵力の消耗はできるだけ避けたいのである。

 ところでフランス軍は、ワーテルローの後どうなっていたのか?
 先に述べた事情で、グルーシーの率いる3万の軍団はほぼ無傷だった。
 戦場から逃げ延びた士官・兵士をそれに加えて、参謀長スルトがラン周辺で部隊を再編成してみたら6万ほどの兵力になった。
 ただし、これは数の上だけの話であり、兵士たちの士気はきわめて低い。
 直近の敗戦の打撃が尾を引いているところに、皇帝退位のニュースが伝わった。
 高級将官の多くは冷静に受けとめたが、一般兵士は違う。
 かれらにとってナポレオンは偶像であり、「皇帝への裏切り」という開戦まえからの噂が、ここにきて再燃した。
 素朴で単純なかれらは嘆き、悲しみ、さらには怒り狂う。
 「皇帝がいなくなったのなら、軍隊もない」 
 そういいながら軍を離脱する者が続出していた。
                            (続く