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物語
ナポレオン
の時代

       Part 2  百日天下

   
第9章 戦争へ 

   13.決戦前夜

 
 ナポレオンがグルーシー元帥にプロイセン軍の追跡を命じてまもなく、雷鳴がとどろき稲妻が走った。
 あたりが暗くなり、雨が降りはじめる。
 ナポレオンは白馬デジレにまたがり、しだいに激しくなる雨に打たれながら、カトル・ブラの周辺を偵察してまわった。
 ときおり英仏両軍のあいだで小競り合いがあり、すぐそばまで弾丸が飛んでくることもある。
 暗くなってからカイユー農場に戻ったナポレオンは、全身ずぶ濡れになっていた。
 暖炉にどんどん火を燃やさせ、濡れた衣服を着替え、ブーツを乾かさなければならなかった。

 夜もじっとしてはいられず、ベルトラン将軍を従えてふたたび偵察にでた。
 プロイセン軍の敗走を知ったイギリス軍が怖じ気づき、退却してしまったのではないかと心配なのである。
 戦えば勝てると確信していた。
 しかし、前線まで行って目をこらしても、雨と横なぐりの風で何も見えない。

  ウェリントンは、この夜、部隊の配置をすこし変えていた。
 15キロばかりブリュッセルの方向に後退させたのだ。
 そこは事前に選んでおいた場所である。
 4月からベルギーに入っている将軍は、このあたりでフランス軍と戦うことになると予想し、先見の明というべきであろうが、入念な事前調査をしている。
 その結果わかったのは、ワーテルローという名の村とソワーニュの森の近くにある高地が格好の防御線になるということ。
 高地のうしろに隠れれば、敵の砲撃から身を守れるし、前方に散在するいくつかの農園は前線の堡塁になってくれる。
 この6月17日の夜、イギリス軍はモン・サンジャンという名のその高地に陣をかまえて、翌日の開戦を待っていた。

                                          (次章に続く