物語
ナポレオン
の時代
ナポレオンがグルーシー元帥にプロイセン軍の追跡を命じてまもなく、雷鳴がとどろき稲妻が走った。
あたりが暗くなり、雨が降りはじめる。
ナポレオンは白馬デジレにまたがり、しだいに激しくなる雨に打たれながら、カトル・ブラの周辺を偵察してまわった。
ときおり英仏両軍のあいだで小競り合いがあり、すぐそばまで弾丸が飛んでくることもある。
暗くなってからカイユー農場に戻ったナポレオンは、全身ずぶ濡れになっていた。
暖炉にどんどん火を燃やさせ、濡れた衣服を着替え、ブーツを乾かさなければならなかった。
夜もじっとしてはいられず、ベルトラン将軍を従えてふたたび偵察にでた。
プロイセン軍の敗走を知ったイギリス軍が怖じ気づき、退却してしまったのではないかと心配なのである。
戦えば勝てると確信していた。
しかし、前線まで行って目をこらしても、雨と横なぐりの風で何も見えない。
ウェリントンは、この夜、部隊の配置をすこし変えていた。
15キロばかりブリュッセルの方向に後退させたのだ。
そこは事前に選んでおいた場所である。
4月からベルギーに入っている将軍は、このあたりでフランス軍と戦うことになると予想し、先見の明というべきであろうが、入念な事前調査をしている。
その結果わかったのは、ワーテルローという名の村とソワーニュの森の近くにある高地が格好の防御線になるということ。
高地のうしろに隠れれば、敵の砲撃から身を守れるし、前方に散在するいくつかの農園は前線の堡塁になってくれる。
この6月17日の夜、イギリス軍はモン・サンジャンという名のその高地に陣をかまえて、翌日の開戦を待っていた。
(次章に続く)